021:エアストドルフ ボス戦・1
待ての勇者と急ぎの姫騎士
021:エアストドルフ ボス戦・1
都合十四組のパーティーが北門が開くのを待っている。
ざっと50人、平均すると一組4人ほど。うちは3人で少ない部類だ。
『付近の安全確認に時間がかかっております、いましばらくお待ちくださいねえ』
助役のオバサンがメガホンで説明する。
「シュミレーションモンスターだろうに、時間をとらせおる」
「雰囲気づくりだろうな」
多少の怪我人は出るが、所詮はサスケと同じイベントだ。最終戦となればこれくらいの演出はやるだろう。
手を挙げる奴が居て助役に耳打ち、助役がクスっと笑って『遅れましたら自己責任で』と言うと、近くの民家に駆けて行く。
「トイレを借りにいったのですねえ」
エマがお見通し。
「スグル、やっぱりトイレで儲けておくのだったな」
ひとり行くと、続いて二三人。
「フフ、こういうのは伝染しますからね」
「あ、ああ……」
オレは別のことを考えていた。最終組に残った者はいずれもひとかどの冒険者に見えるが、中には華奢な女性ばかりのや年寄りのパーティーなど、場違いそうな者もいる。ここまで勝ち残れた理由の何パーセントかは運だろう。
日露戦争で連合艦隊司令長官に選ばれたのはロートルの東郷平八郎だ。「なぜ東郷なのだ?」と明治天皇がお尋ねになって「東郷は運のよい男でございます」と海軍大臣の山本権兵衛が答えた。営業で周っていると、こういう雑学めいたことが蓄積される。
「いよいよでございますよ」
村長が助役に肩車され、トイレに向かった者たちも戻ってきた。
『それでは、エアストドルフ第78回魔王討伐フェスト最終戦! 開門!』
ギギギギギギ……
見かけよりも重低音の軋みを響かせて北門が八の字に開く。
ドォォ~~~~~~ン
いかにも魔境というエフェクトが入る。
数秒、だれも動かない、身じろぎ一つしない。
なんの変哲もない草原、遠くに森と山々が見えるだけで、ズィッヒャーブルグからここまでの風景と変わりはない。しかし、ラスボスがいるという条件が加わると、見えていなくても人は恐怖を感じる。
タタタタ
トイレで遅れたやつも駆け足で戦列に戻ってくる。それがスイッチだったように一人二人と前に出て、数十秒は横一列、しだいに団子になって前に進む。俺たちは、団子の右端に着いた。
ザックザックザック……怖れからなのか歩調がそろってきた。
同調圧力だろうか、みんなビビっているから、無意識のうちに揃ってしまう。
視野の端にヒルデとエマを捉えておく。いざという時に頼りになるのはこの二人だからな。
タタタタ
まだ遅れていた奴がいるのか……と思ったら、違った。
キャーー! ギャーー!
振り返ると、最後尾の二人がラスボスに食われていた! 最終組たちが、いっせいに散る!
「ちがう、三人だ……」
ヒルデが呟くと、五本の足がラスボスの口から落ちてきた。一本はラスボスの口にぶら下がっていて、ラスボスが顎をしゃくって呑み込んでしまった!
最終戦は不意打ちから始まった……。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ ブァルキリーの戦乙女
・エマ バンシーのメイド
・女神 異世界転生の境に立つ正体不明の女神
・ハンス・バウマン ズィッヒャーブルグのギルドマスター
・フンメル 西の墓地に葬られている一万年前の勇者
・カルマ フンメルとパーティーを組んでいたエルフの魔法使い
・秀の友人たち アキ 田中




