001:アキバコスハク 待てと迷いの主人公
待ての勇者と急ぎの姫騎士
001:アキバコスハク 待てと迷いの主人公
分かってはいたけど愕然とした。
相変わらずの賑わいだけど、ほとんど別もの。
アキバにアルコールやら風俗は似合わないぞ。なんで、中国語の看板? 昔ながらのメイド喫茶と思ったら、コンカフェ。中央通りをドンキに向かおうとして回れ右。外人観光客多すぎ、客引きもメイド喫茶じゃなくてコンカフェのそれだ。なんでキャリーケースの店が並んでるんだ。
総武線のガード下、かつてはオヤジが一人でやってますって間口一間のパーツ屋が並んでいた……電子部品に興味のないオレは、田中たちの付き添いで回ることしかなかったけど、やつと親父のやり取りを聞いてるだけで楽しかった。
道を渡ってジャンク街の方に逃げてみようかと思うけど、ちょっと待った。
なにも悪い変化ばかりじゃない……というか、正直圧倒されている自分もいる。
不器用な後輩と思っていたアキたちが『アキバ・コスハク』を立ち上げたというので、二回はパスしたけど三度目の今日、大阪への出張を断る理由にやってきた。30歳を目前、正社員になるチャンスだったけど、いまの会社で身を立て名を上げようとは思わない——ちょっと待て、オレにはもっと違う道があるはずだ——とな。
しかし、広場とUDXを拠点に開かれたコスハクは、ちょっとすごかった。
なんというか、俺たちがチマチマやっていたころとグレードが違う。アマゾンで買ったお仕着せのコスじゃなくて自力で作ってやがる。それもグレードが想像の上を行ってやがる。ああいうグレードは『着セコイ』とかのアニメの話だけだと思っていた。ツケマ、カラコン、リフトアップ……どころか、惜しげもなく露出した上チチはリアルと見紛うGカップ。「触っていいですよ、先輩」と言われて恐る恐る触れたそれは本物のGカップを型どりしたシリコン製のフェイク!
日本だけじゃなくて、外国のレイヤーもけっこう居た。アキバの、それもコスハクに参加しようという外人は日本語も巧みで、アキたちとも楽し気に写真を撮ったりグッズの交換をしたり。
「先輩、いっしょに写真撮りましょうよ!」
腕を絡めて来た一年生に「先に観ておきたいところがあるから(^_^;)」とこればかりは昔と同じ愛想笑いで移動して。周ったところで発見した!
真正、掛け値なしのブリュンヒルデ!
おそらくは北欧、ノルウェーかスウェーデン。青い瞳にプラチナブロンド、抜けるように白い肌だけど、微妙に肩幅が広く、筋骨隆々ではないのだが効率のいい筋肉は引き締まってF1のサスペンションを思わせる。
『君の名は』を最後に気合いを入れて観ることもなくなったアニメだけど、彼女が成りきっている『漆黒のブリュンヒルデ』だけは欠かさず観ているし、ラノベも既刊本については欠けは無い。
まあ待て、言いわけ半分に、もう一度ヒルデを見て行こうかと信号の手前で立ち止まった。
ちょっと気恥ずかしかったので、写真を撮り損ねたんだ。回れ右と思って、また躊躇われる。
自分同様に三十路以上のオタクも居るには居たが、気持ち的にオタクは卒業している。
それに、もう一つ思い出してしまった。
部屋のトイレの具合が悪くて、5時には管理人さんに見てもらうことになっている。明日は管理人さんの居ない日だから、これを逃したら数日は修理が遅れる。ウォシュレットの壊れたトイレ、二日以上は我慢できない!
再び回れ右すると、ちょうど親子連れが横断を急いでいる。
まあ、待てばいい、決心したんだから。信号も点滅しているしな。
さあ、赤に変わるぞと思った瞬間。
ドン!
後ろからぶつかる者がいて、その勢いと質量に俺はタタラを踏みながら車道に飛び出てしまう!
ウファ~~ア!
なんとも締まりのない悲鳴が出て、真横に気の短いセダンが迫ってきた!
キーーーー! ドゴン!
ブレーキと、衝突の鈍い音がして天地がひっくり返る!
ひっくり返りつつ、ブリュンヒルデ全力疾走の後姿が見える。
ちょっと待て、なんでヒルデが…………思った刹那。
グチャ!
オレの意識は途絶えてしまった。
☆彡 主な登場人物
・鈴木 秀 三十路目前のフリーター
・ブリュンヒルデ
・秀の友人たち アキ 田中




