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第四十七話 『親友』




 ──時は東雲が新崎と別れた直後に遡る。




 初めて自分のことを彼の意思で頼ってくれたことに、心の底から嬉しさが込み上げてくる。


「失敗はできない……!」


 東雲が頼まれた役割は、仲の良い男女二人ずつを連れて新崎が向かった場所に連れて行き、彼が悪人ではなかったという真実を伝えることだ。


 東雲の役割は今回の策の核となる。

 絶対に失敗はできない。許されない。


「坂野ー!!」


「東雲? 帰ったんじゃなかったの?」


 二年の校舎に着き、丁度二年八組の教室に忘れ物をした坂野が出てきた。


「え、なに? なんでそんなに慌ててるのよ」


「石母田さんが拉致られたんだよ!!」


「──嘘」


 東雲が言った直後、坂野の表情は絶大な悲しみへと変化した。


「今逸釆が一人で石母田さんのことを助けに行ってる。坂野は淡土さんたち警察をこの住所まで連れてきてくれって逸釆が……」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 新崎が一人で? あんたはなにしてるのよ!!」


「──俺は逸釆に別のことを頼まれてるから」


 石母田が拉致られた住所が書かれている手紙を出そうとした寸前、坂野の怒声で東雲の手は止まった。

 だが、怒声に対して東雲は冷静に応じる。


 共にいて詳しい事情を知っているはずの東雲がここにいることは、本来であれば有り得ないことだ。

 今だって、心配で策なんか無視して助けに行きたい気持ちで溢れかえっている。

 しかし、それをすれば仲間を裏切るのと同義だ。


「逸釆も石母田さんも大丈夫だよ。詳しい説明をしてる時間はないから何をするかは言えないけど、俺は俺で最善を尽くす。だから坂野も、二人を助け出すために協力してほしい」


 目を合わせ、東雲は力強く言った。

 坂野は一瞬だけ逡巡するが、すぐにため息を吐いていつもの堂々とした自分を取り戻した。


「全面協力するって言ったのはあたしだし、それに新崎のことだから、必ず智音を助けるわよね」


「坂野……!」


「智音が連れてかれた場所の住所と、あんたたちが仲良くしてる警察の連絡先教えなさい」


 言われて、東雲は新崎の下駄箱に入っていた手紙と淡土たちの電話番号が書かれた名刺を坂野に渡した。


「ありがとう、坂野」


 東雲にとっても、新崎を信じてくれる存在が増えてくれたことは何よりも嬉しかった。

 それに坂野は元々、新崎が悪人だと思っていた側の人間だ。けれど、そうでないと気づき声をかけ、周囲に新崎と関わっていることを見せつけて全面協力を約束した。


 坂野柚葉は、常に堂々とした我の強い女だ。

 そんな彼女でさえ、新崎が悪人ではないと考えが変わったのだ。

 ──新崎逸釆は信頼を取り戻せる。

 まさに坂野こそ、その事実の証明にほかない。


 今までのことも踏まえて、東雲は真っ直ぐに坂野を見つめて純粋な感謝を伝えた。


「……それはあたしのセリフでもあるわよ」


「え?」


「なんでもないわ」


 何か坂野が呟いたが、東雲は聞き取れなかった。

 東雲が自分の役割を始めようと動こうとした瞬間、


「二人のこと、頼んだわよ」


「──! もちろん!」


 力強い声援を受け、東雲はその場を後にした。


 ポケットからスマホを取り出し、現在部活動を行なっていない仲の良い男女に連絡を始めた。

 まず一人、電話をかけると即応答した。


『なに?』


「あ、真那矢(まなや)? この後暇?」


『暇だけど』


「肝試し行こうぜ! とっておきの場所見つけたからさ!」


 電話の相手は同じ六組の青木真那矢だ。

 ただでさえ唐突な誘いに申し訳なさを感じる中、なおかつ嘘をつくことに東雲は微かに罪悪感を感じた。

 しかしこれは、同じ大切な友人を救うためだ。

 今だけは、嘘をつくことなど大したことじゃないと割り切った。


『りょー。他に誰か誘う?』


「そうだなー、安都(あと)とかどう?」


『なんで女子』


「いやほら、肝試しって男集団で行くより女子もいた方が楽しそうじゃん?」


『んー、まぁ言われてみれば。じゃあ、牧野(まきの)福凪(ふくなぎ)誘っとくわー』


「マジ!? サンキュー! じゃ、学校近くの公園集合で!」


 東雲は青木に感謝を伝えて通話を切った。


 思いがけず、必要な男女二人が揃ってしまった。

 男一人目は通話相手の青木真那矢(あおきまなや)。男二人目は牧野大牙(まきのたいが)

 女一人目は安都莉里(あとりり)。女二人目は福凪翠(ふくなぎすい)


 自らの運の良さに東雲はガッツポーズをした。


「二人とも無事でいてくれ!」


 託された思いに、答えなければならない。

 大切な友人を、助けなくてはならない。


 相手が誰であろうと助けてみせる。

 ──『親友』である彼らと、再び笑い合うために。




 ■■■■■■■■■■■■■




 時刻は十八時半を回り、既に空は黒く染まっていた。


 あの後、約束した明様高近くの公園に四人はすぐに集まり、新崎が向かった場所へ早めに出発することができた。

 とはいえ、新崎が到着してからは一時間以上経過してしまっている。


 徐々に東雲の脳裏を最悪の可能性が浮かび始め、焦りを感じ始めている。

 だが、それを表に出さず、不自然だと思われないように極限まで平静を装っている。


「にしても廃工場選ぶとか、シノ意外とセンスあるんだ」


「意外は余計だよ……」


 中学から仲の良い安都が冗談めかして言ったのに対し、東雲は軽口で返した。

 ひとまず今のところ疑われてはいないことに、内心で東雲は胸を撫で下ろした。


 肝試しというていのため進みは遅い。

 今すぐにでも奥へ走って行きたいのを必死に堪えながら、談笑しつつ先へ進んでいく。


「──いい加減折れやがれ!!」


 ある程度進んだところで、奥から男の怒号が轟いてきた。

 先頭を歩く東雲は背後へ振り返る。すると、連れてきた男女四人は目を見開いたり、口を抑えたりして怯えた様子だった。

 どうやら、今の怒号が聞こえていたのは自分だけではなかったようだ。


 それを確かめてから東雲は更に先へ、


「……ま、って」


「ん?」


「今の、聞こえなかったの……?」


「物凄い怒ってたよね」


「そうじゃなくて! このまま進んだらやばいよ!」


 連れてきたもう一人の女子、福凪が怖気づきながら東雲の服の裾を引っ張って先へ進ませないようにした。


 込み上げてくるのは猛烈な罪悪感だ。

 友人に嘘をついて危険な場所へ連れてきた挙句、酷く怖がらせてしまった。

 東雲は自分が最低な男だと自らを心中で罵倒した。


 でも──この四人が新崎にしてきたことを思えば、大した問題ではない。


 東雲は友人だからこそ知っている。

 青木も、安都も、牧野も、福凪も。

 揃いも揃って、真実を知りもしないで新崎逸釆はゴミでクズな最低最悪の人間だと言っていることを。


 その時、どれだけ我慢しただろうか。

 新崎がそんな人間じゃないと、本当は優しくて真面目な人間だと、言いたくて仕方がなかった。

 だが、他の誰でもない新崎本人から東雲と関わっていることを伏せろと言われているため、言えなかった。


「ごめん、嘘ついた」


「え……?」


 我慢するのは、今日で終わりだ。

 新崎たちと共に新たな一歩を踏み出す。

──明るい未来への一歩を。


「とりまついてきて」


「東雲……」


 真剣な眼差しで四人を見る東雲に、牧野がポツリと名を呼んだ。

 そして──、


「マキ!?」


「わかんねぇけどさ、なんとなく、ここで帰っちゃ行けない気がするんだよ」


 牧野の一言に、東雲は内心で感謝した。

 四人に背を向けて、怒号が聞こえてきた方へ再び歩み始めた。


 東雲が歩き始めたと同時、足音は一つ、二つと増えていき、遅れてもう二つの足音が続いた。

 そのまま振り返ることなく、先へ進んでいく。


「──っ!」


 前方、二つの人の姿が視界に入った。

 背後へ振り返り、四人に指で静かにするよう指示。

 できるだけ近く、尚且つ相手に気づかれない位置を探す。

 東雲は錆で穴だらけの一番奥から一個手前の廃工場の中へ、四人を誘導して入っていくことにした。


「……はは、滑稽すぎんだよ。ずぁ!」


「テメェがその憎たらしい面やめねぇのなら、二度と笑えなくしてやるまでだ」


 廃工場の壁の穴から、五人は凄惨な光景を目の当たりにする。


「やられてるの、まさか、新崎か……?」


「相手は、六組の荒木田……」


 青木と安都が視界に入る二人が誰かを口にした。


「そう、左が新崎逸釆で右が荒木田哲人」


「…………」


「四人をここへ連れてきたのは──新崎逸釆が悪人じゃないって直接確かめてもらいたかったから。その事実を、後でみんなに拡めてもらう役割もお願いしたくて連れてきたんだ」


 最後に「嘘ついてごめん」とだけ付け加え、東雲は四人に対して頭を下げた。

 すぐに頭を上げて、声量を抑えながら東雲は話を続けた。


「今日の夕方、友達の石母田智音さんが荒木田に拉致られた。だから俺と逸釆と坂野は、石母田さんを助けるために行動してる」


「拉致……」


「逸釆があそこまで傷ついた状態でいるのは、石母田さんを助けるためだ」


 四人は東雲の話を聞いて、唖然とした。

 そんなわけない。信じられない。表情から内心でそう思っていることが読み取れる。


「連続傷害事件を解決したのは、逸釆だ」


「……え?」


「一年の小比類恵那さんの学年全体のいじめと、父親からのDV問題を解決したのも、逸釆だ」


 冷静に、けれど確かな強い想いを宿しながら言葉を紡いでいく。


「体育祭の妨害だったり、文化祭の嫌がらせをしてたのが夜叉だって暴いたのも──逸釆だ」


 「────」


「みんなはさ、逸釆が三芳に暴力を振るった悪人だって思ってるんだろうけど、本当に逸釆が悪人なら事件とか問題とか解決しようなんて考える?」


「でも、芽亜ちゃんに酷いことしたのは本当で……」


「直接見た人いる? 確実な証拠はあるの?」


「……ぅ」


「三芳側が逸釆から全治七ヶ月の傷を負わされたって言ってるだけじゃんか。実際、入院してる三芳の顔見た人いないわけだし」


 結局は、明様高校の人間が「本人が言ってたから」という理由だけで新崎を悪人呼ばわりしていたにすぎない。誰も詳しい事情を知らないし、被害に遭ったはずの三芳の姿を見た者は誰一人としていない。


 それをおかしいと言うものは限りなく少なく、口に出すものなどそれこそ一握りだ。


「お前たちは揃いも揃って最低だ。俺は絶対に許さないし、逸釆だって石母田さんだって、坂野だって許したりなんかしない」


 そう言ってから、東雲は四人に背を向けて立ち上がる。


「……どこ、いくんだよ」


「──。『親友』を助けにいく」


「き、危険だよ……」


「親友を助けるためなら、どれだけ危険だろうと構わない」


 今はまだ、新崎とは正式な友人関係ではない。

 東雲が一方的にそう思っているに過ぎない。

 けれど、今の東雲にとって新崎はただの友人ではない。──親友だ。


 全てが片付いたら、皆で集まって言葉を交わそう。

 利用者と道具としての関係ではなく、友人同士としての言葉を、交わそう。


「さっき言ったけど四人のうちの誰か一人でいいから、逸釆と荒木田の姿をしっかり動画に撮っておいて。あ、俺が映るのは気にしなくていいから」


「ちょ、ちょっと!」


「それじゃ」


 言って、東雲は廃工場の裏口から外へ出て行った。




 残った四人は、逃げ出すこともできずに恐怖心に苛まれながら俯いていた。


「……!」


「マキ……?」


 他三人が俯く中、牧野はポケットからスマホを取り出して壁の穴から新崎と荒木田の姿を撮影し始めた。


「もしかして信じるの!?」


「新崎が悪い奴じゃないってのは、完全に信じたわけじゃない。でも、いつも無邪気な東雲があそこまで真剣に新崎を助けようとしてたんだ。……だから、確かめなくちゃって思ったんだ」


 新崎逸釆は最低最悪の悪人。

 この認識は、明様高校にいる九割の人間の共通認識だ。この場に残った青木、安都、福凪、もちろん牧野もそう認識している。


 だが、三芳芽亜に暴行した最低な奴が今、目の前で一人の女の子を助けようとしている。

 その姿ははっきり言って──矛盾していた。


「東雲も言ってたけど、新崎が本当に悪人なら事件を解決したり人助けしたりなんてしないだろって、思ったんだよ」


「そんなの……」


「嘘って片付ける資格は、今の俺たちにはない。ボロボロになってる新崎が、目の前にいる俺たちに」


 反撃する気はなく、ただ一方的に荒木田に痛めつけられているだけだ。

 現状にそぐわぬ笑みを浮かべているのは、おそらく東雲が来るまでの時間稼ぎだろう。


「確かめなくちゃならない。新崎と俺たち──どっちが最低最悪の悪人か」


 東雲が話したことが全てなのだろうし、目の前に答えはある。

 でも、やはり信じられない。──否、信じないようにしている。


 だからこそ、自分たちには最後まで新崎逸釆の今を見届ける責任がある。


「ちょっと、ナギまで!?」


「あたしも完全には信じてない。でも、牧野と同じ気持ち」


 牧野に続いて動いたのは福凪だ。

 続けて青木も、牧野と福凪に賛同する。

 そんな三人を見て、安都は「なんなの……」とふらふら崩れながら地面に手をついた。


「新崎は芽亜に酷いことしたんだよ? なのに今女の子を体張って助けてるってだけで、悪人じゃないなんて信じられない…!」


「莉里……」


 ポロポロと涙を流しながら、口を抑えて縮こまっていく。

 だが三人の意思は変わらず、安都の存在を外において新崎を見届けることにした。




 隣接している廃工場の裏側にある階段を上り、二階から中へ入る。

 幸い二階には見張りはおらず、物音さえ立てなければ警戒させず容易に奇襲を仕掛けられる。


「──っ!」


 相手の人数を把握しようと視線を下へ向けると、左側に吊るされた石母田の姿があった。

 先ほどまでよりも、荒木田に対する憎悪が膨れ上がっていく。


 ざっと確認した限り、相手の数は二十人は確実にいる。十人程度ならなんとかなるが、その倍となれば話は別だ。

 いくら東雲とて数で押されればジリ貧だ。


「……ん」


 唾を飲み込み、東雲は足音一つ立てず右奥へと進んでいく。

 手すりは既に壊れてなく、あるのは鉄パイプの束だけだ。そこから視線を斜め右に向ければ、


「ごらぁ! 死ね! くたばりやがれぇ!」


「ま、が! たそれ、んぐ! かよ……うはっ」


 横たわる新崎の顔面に蹴りを二発、背中に肘鉄を一発荒木田が打ち込んでいるのが見えた。


「きっ……!」


 ギリギリと奥歯を噛みながら、東雲は必死に暴発しかける自分を抑え込む。

 それからタイミングを見計らう。


「おい! 金属バット持ってきやがれ!」


 廃工場内に荒木田の怒声が響き渡る。


「いや、あの……」


「あぁ? テメェ、俺に文句あんのか?」


「い、いいいえ! そんなつも」


「あるからなんか言おうとしやがったんだろうが。あ?」


「その……。えっと、流石に死んじゃいますよ……」


 手下の一人が縮こまりながら荒木田に対して言った。


「馬鹿じゃねぇのかテメェ」


「へ?」


「──殺すつもりでやるに決まってんだろうが」


「──ッッ!」


 荒木田のその一言に、東雲は完全に憎悪に心身を支配された。

 今すぐにでも飛び出して──、


「……ま、だだ」


 飛び降りる一歩手前で踏みとどまる。

 今飛び出すにはタイミングが悪いと判断した。


「や、でも……」


「はいはい、これでオーケー?」


「ああ」


 何か言いかけた手下の一人を背後へ突き飛ばしながら、昼間すれ違った木部(きべ)が荒木田に金属バットを渡した。

 それから荒木田は新崎のところへ、木部は縮こまる手下の肩に触れて、


「余計なことすんな雑魚」


「ひ」


 明らかにイラついた表情を浮かべながら言った。


 新崎のところへ行った荒木田は、金属バットを肩に担ぎながら堂々と新崎の前に立って見下ろした。


「どうやってもテメェは折れねぇらしいな」


「当然だ」


「そうか。苦しむテメェの顔が見れねぇなら続けても時間の無駄だ。──殺してやる」


 瞬間、東雲は行動を起こした。

 隣に置いてあった鉄パイプを石母田を囲んでいる四人の不良に向けて投げ飛ばした。


「くらえ!」


「なんだ!? ぐお!」


 鉄パイプを二本手に持って、二階から一階へ飛び降りる。中空で持っていた鉄パイプを、更に二人の不良に向けて投げ飛ばす。

 真下にいたもう一人の不良を踏み台にし、東雲は着地時のダメージを軽減。

 これで、七人は潰した。


「誰だてめぇ!」


「しょ!」


 十人以上に囲まれ、次々と襲いくる不良の攻撃を回避からのカウンターを繰り返し、一瞬にして返り討ちにしていく。

 残った五人の不良を視界に捉え、向かってきていた一人に倒れ伏した不良をぶつけて昏倒させる。


 次に二人目の迫ってきていた拳撃を肩で受けてから、腹部に蹴りを入れて首に手刀を打ち込み気絶させた。


「危な!」


 三人目、四人目の同時攻撃はバク宙で回避、それから四人目の前へ滑り込み頭上へ跳躍、頭頂部へ踵落としを入れる。続けざまに三人目の背後へ周り、首を圧迫して気絶させた。


 そして、残すはあと一人。


「へへー、面白ぇなおい」


「お褒めに預かり光栄、だ!」


 最後の手下、木部の足下へ蹴りを入れようとする。

 しかし、


「とと、くると思ったぜ」


 軽く跳んで木部は東雲の蹴りを避けた。

 だが東雲は──笑っていた。


「避けると思ったよ!」


「あ? って、な!?」


「リーダーにしか用はない!」


 蹴りを回避された直後、東雲は跳んだ木部の下を抜けて背後へまわり込んだ。

 ガラ空きの首に手刀を打ち込み、木部を気絶させた。




 ■■■■■■■■■■■■■




 目の前で何が起こっているのか、全く理解できなかった。

 荒木田の背後で銀色の物体が飛んできたかと思えば、次に来たのは人影だ。


 二十人以上いた不良は、皆地面に倒れている。

 思わず狂笑が崩れそうになった。


「テメェは……」


「──いやぁ、こんな大人数とやり合ったのは初めてだよ」


 現状に合わない感想をこぼしながら、廃工場の中から見知った男が出てきた。

 その顔を見て、俺の全身は猛烈な安堵感に包まれていく感覚に満たされる。


 荒木田と俺の正面に男は立ち、それから俺の方へと振り返る。


「いつ、とっ……!」


 男は──東雲は俺の姿を見て驚愕した。

 まぁ、その反応は当然だ。なにせ、一時間以上も一方的に暴行され続けたんだからな。


 目を見開いて硬直する東雲を、俺は狂笑を残したままに見つめる。

 そして──、


「──笑え」


 一言、口パクで東雲に伝える。

 すると、東雲は驚愕から意識が戻り、数秒目を瞑ってから開いて、悲しむ表情から満面の笑顔へと変わった。


「生きてて良かったよ──逸釆」


「……遅ぇよ」


 いつもの気安い調子で、東雲は笑顔で俺にそう言った。





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