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第三十三話 『競技の妨害』

 




 --

 《明様高校 体育祭スケジュール 前半》


  『集合時間』 『開始時間』

 1 開会式 8:00 8:40


 2 体操 8:45


 3 男女100メートル 9:00 9:10


 4 男女200メートル 9:30 9:40


 5 障害物リレー 10:00 10:10


 6 三年 1500m 10:25 10:40


 7 二年 綱引き 10:35 10:50


 8 二人三脚 11:00 11:05

 

  【昼休憩】

 --






 取引を拒否しても悪。取引を受けても悪。依頼を達成しても悪。

 初めから、悪い結果しかない戦いだ。


 自覚はある、馬鹿げたことをしてると。

 だが、俺は誰にも屈しないと心に決めていた。

 それは当然、今回も例外じゃない。


「――――」


 尾暮雷が仕掛けてきた、俺に確実に不利益が被る取引。

 俺の七年前の地獄を校内に拡めない代わりに『二年四組を体育祭で最下位にしろ』 という内容だ。


 まず、俺は体育祭においての点数配当を知らない。体育祭実行委員を務めたことはあるが、主に準備や競技決めで点数配当については別の生徒が担当していた。


 妨害を始める前に、体育祭の各競技の点数配当を知る必要がある。

 でなければ、どの競技が一番妨害した時にマイナス点が大きいかわからないまま、競技の妨害をしなければならない。


 俺が最初にするべきことは、


「坂野、東雲は体育祭実行委員だったな?」


「え、ええ」


 去年から変わらないなら、体育祭の競技点数を扱ってるのは委員長などとはまた別だ。

 東雲の頭だと、点数配当の係などとても務まらない。かといって、仕切ったりもできない。

 せいぜい設営程度の役職だろう。


 なら、そこまで忙しくはない。

 俺は去年、副実行委員長だったため、委員長と大差ない仕事をさせられた。

 その中でも、設営作業は競技決めや点数配当などの細かな部分をやらずにただ練習や当日に準備するだけでよかった。


「あいつの役職はたいして忙しくない役職のはずだ」


「なんでわかるのよ?」


「脳筋以外にあるかよ」


「……あぁ、そういう」


「委員長や実況なら忙しいが、設営と誘導は比較的楽だ。となれば、東雲と連絡がとれる。――あいつに接触しないで利用できる」


 俺がそう言うと、坂野は納得したような表情を浮かべた。


 意図的に一つのクラスを負かすというのには、体育祭実行委員との連携は必須言っていい。

 そこで、役職が忙しくて無理だったり、そもそも体育祭実行委員に知り合いがいないなどとなれば、また別の手段を講じる必要があった。

 今の俺の立場的に有り得なくない話だったが、幸い東雲がいる。


 信用はしないが利用はする。

 これが、俺と東雲との関係性だ。言ったからには、徹底的に使い倒す。


 俺はスマホを取り出して、SNSのメッセージアプリを開き、東雲に早速連絡した。


 《お前各競技の点数知ってるか?》


 初めから知ってるなら話は早いが、それはないと見ていい。


 メッセージを送って数秒後、既読がついて東雲から返信がきた。


 《お、逸釆からメッセージじゃん!》


 《さっさと答えろ》


 《ごめんごめん……。悪いんだけど、俺は設営担当だからその辺のことは全然で。力になれそうになくてごめん……》


 一回のメッセージで三度も謝ってきた東雲。

 こいつが設営担当なのは、とっくに予想してたことだ。その上で、俺は再び返信をした。


 《競技点数を知ってる奴から聞き出してこい。お前ならそういう知り合いもいるだろ》


 《いるけど、なんで競技の点数なんか知りたいの?》


 《厄介なことになってる以外にあるか?》


 《厄介なこと!? わかった! すぐ聞いてくる!》


 《ああ。最後に、スマホの通知はオンにしとけ。直接関われない以上、メッセージアプリでしか話ができないからな》


 《了解!》

 

 東雲とのメッセージアプリでの会話を終えて、俺は一度息を吐いて意識を切り替える。


「まずは東雲からの連絡を待つ。その間に各競技をどう妨害するかを考える」


「わかったわ」


 後で俺が競技を妨害していたと拡散されるにしても、絶対されるなんて確証はない。

 さらに言えば、目に見える形で堂々と競技を妨害するのは論外だ。

 つまり、俺たちは誰にも気付かれることなく妨害を完遂する必要がある。


 競技の妨害をするにあたって、二年四組以外は眼中に入れる必要はない。二年四組を最下位にするのが目的だからな。


「百メートルと二百メートルの妨害は、今からじゃ遅いし、個人競技だから無理ね」


「ああ。だから、リレー競技だけを妨害する方向で進めていく。最初のリレー競技はなんだ?」


「確かー……」


 坂野は体操着のズボンのポケットから体育祭のスケジュールが書かれた紙を取り出して、最初のリレー競技を調べ始めた。


 数秒と経たぬうちに坂野は顔を上げた。


「障害物リレーね」


「障害物リレーか……」


 俺は顎に手をやり、静かに思考する。


 明様高の障害物リレーは、最初に麻袋に入って一定距離進み、その後にハードルを潜って飛ぶ。最後にネットを潜り抜けてバトンを渡すというものだ。

 割とどこにでもある障害物リレーとなっている。


 どう妨害すればいい?

競技の道具に細工を施すか、選手に何かするか――、


「いや、待てよ」


「何か思いついたのかしら?」


 俺の呟きに坂野は微かな期待の目を向けてくる。


 まず最初に妨害する競技、障害物リレー。

 こんなの、よく考えるまでもない。――一番簡単に妨害ができる競技だからな。


「ああ、思いついた」


 言って、俺は坂野へ視線を向けた。


「障害物リレーは、障害物を利用して行う競技だ」


「……当たり前でしょ」


「――それを利用する」


 俺が何を言っているかわからないという表情を坂野は浮かべている。

 俺は話を続ける。


「麻袋に入って進み、ハードルを潜って跳び、最後にネットを潜り抜けてバトンをパスする。これを一つでも間違えたらどうなる?」


「え? 普通に考えて失格よ、そんなの。……って、ああ、なるほどね」


 坂野は俺が何をしようとしているかを察し、顔を顰めながら頷いた。


「去年、障害物リレーで失格になったクラスがあった。そいつは、ハードルを潜って跳ばないで両方共跳んだ。だから失格になった」


「つまり、ハードルのところが一番間違いやすいから、競技が始まる前に『ハードルは両方跳ぶ』ってデマを流すわけね」


「そうだ」


 俺が考えている策は――二年四組を障害物リレーで失格にさせることだ。

 他のリレー競技や学年競技である棒倒しよりもよっぽど楽だ。

 なんせ、一人でも障害物を超える順序を間違えれば失格になるんだからな。


 二年四組の障害物リレーの出場生徒一人に、デマを吹き込む。後は勝手に吹き込まれた生徒が順序を間違えるだけでいい。


 最も簡単で、安全に妨害できる上に出鼻を挫ける。ここまで妨害しやすい競技は、障害物リレー以外に他にない。


「……普通は妨害なんて面倒な事自体、したりしないが」


 誰かに指示されても、普通だったら妨害行為をするつもりは毛頭ない。

 ただ、今回はやむを得ない状況のため仕方なくだ。


「あたしは何をすればいいかしら?」


「――。―――。――――」


「何か言いなさいよ!」


「いや、よく考えたら現状坂野はほとんど役に立たない。あまりに目立ちすぎる」


「………ぅ」


 堂々と俺と関わっているということは、それだけ周囲に俺たちの関係を知らしめていることになる。

 同時に、坂野の信頼度は急降下していることにもなる。

 利用する上で、他の奴らよりも立場が悪いためかなり使いづらい。


「とりあえずだ、お前は石母田と会話しながら自然に『ハードルは両方飛ぶ』ってのを聞こえるように話せ」


「……わかったわ」


 納得のいかない様子で坂野は返事をした。




 ■■■■■■■■■■■■■




 東雲から各競技の点数配当の連絡が来たのは、百メートルの競技中だった。

 百メートルは一応俺も出場者だったため、適当に走り、周りが遅かったせいかなんなく一位を取れた。

 この事はどうでもいいため、俺は東雲からメッセージで送られてきた競技の点数配当を確認する。


 百メートルは人数により変動し、一点から。二百も同様。

 リレーも同じくクラス数により変動し、十点から。二年の場合は八クラスあるため、最高八十点となる。

 二人三脚は一レース四ペアずつ走り、一から四点。

 棒倒しなどの学年競技は、一位のみ十点からクラス数の点からプラス二十点される。二年だと八十点からプラスするため、一位になれば合計百点となる。


 リレーは二年の場合四クラスずつ走るのに、八クラスをどうやって順位づけしているのかというと、体育祭実行委員である審判二人が、タイム測定をしている。

 そのタイムに基づいて、競技の最終的な順位を決定しているのだ。


 失格判定についてもメッセージに記載されていた。

 隣のレーンに入る、障害物の超え方を間違える、バトンの投げ渡し、ライン越え、フライングなどが失格判定になるようだ。


「さて……」


 既に、手筈は整えてある。


 東雲から点数配当の連絡を受けた際に

 《障害物リレー出場者で仲の良いやつに、ハードルは両方跳ぶって吹き込め》

 と送った。

 東雲からは《俺が言うと後々まずいでしょ? 友達に言わせておくよ》と返ってきた。


「おい坂野」


「なによ?」


「石母田に俺が脅されてることは伝えるな。心配されても迷惑だ」


 あいつは俺のことになるとやたらと心配してくる。

 ちょっとしたことでも落ち込まれるため、脅されてるとなればとてつもなく心配してくるだろう。

 毎回だと迷惑だ。この判断が正しい。


「へぇ〜」


「なんだよ」


「別に〜? あんたの言う通り、智音には言わないでおくわ」


 坂野がイラッとする顔をしながら返事をしてきたが、シカトしておく。

 


 待つこと数分、目的の障害物リレーの時間となった。

 坂野は待機列へ向かい、先に並んでいた石母田と早速会話している。


 東雲も連絡していた通りのことを実行しているはずだ。


「――――」


 四クラスずつに分けられた。


 一番目は、一レーンが二組、二レーンが三組、三レーンが五組、四レーンが七組。

 次に二番目。

 一レーンが八組、二レーンが六組、三レーンが四組、そして四レーンに三組だ。


「いちについて」


 審判のかけ声と同時、校庭は一気に静脈に包まれた。


「よーい」


 合図の直後、一走者目は揃って走りの構えをした。


「始まったか」


 ドンッ、という爆音が鳴り響くと放送から音楽が流れ始め、校庭は静脈から喧騒へ。

 障害物リレーが始まったのだ。


 一クラス合計二十人が走る障害物リレー。

 選手たちは続々と走りだし、勝利を掴むために全速力で走っている。


「次か」


 数分で一番目の走者はアンカーへ。二番目の走者たちは、スタート位置の隣で待機を始めている。


 アンカーがゴールし、結果は三組が一位となった。


「――――」


 一分後に二番目に走る選手たちは、スタート位置へ。

 盛り上がる雰囲気の中、二番目の選手たちの障害物リレーが幕を開けた。


 四走目まで、八組が一位。五走目から三レーンの一組が最下位から一位へ。

 予想外にも、八組は一組と一位争いを繰り広げている。やる気がないと思っていたが。


「クソっ、ミスらないな」


 十走目、二番目の障害物リレーは折り返しとなるが四組は二位に上がり、八組と一位争いを始めた。が、四組の生徒が障害物の越え方を間違える気配がない。


 それから、一人、二人と次々にバトンが渡っていく。


 十六走目の選手にバトンが渡り、俺は焦りと苛立ちを膨らませていた――直後。


「……焦らせるなよ」


 二年四組の十六人目の走者が、ハードルを二つとも飛び越えた。

 これで二年四組は――失格となった。


「まずは一つ」


 二年四組が障害物リレーで失格になり、点数がゼロになった事実に安堵する。

 しかし、まだたったの一つだ。この後、四組が連続で一位を取り続けるようなことがあれば最下位にはできなくなる。


「次は綱引きか。妨害は無理だな。となると、次は二人三脚」


 問題は、ここからだ。

 障害物リレーは簡単に妨害できたからいい。だが、二人三脚などの競技の妨害ははっきり言って難しい。


「クソ、どうすればいい……」


 二人三脚は、二人並び隣り合った足首を結び合わせ、三本足で走る競技だ。

 ……妨害するとなれば、足首を結び合わせる布に細工をするくらいか。


 だが、細工をすると言ってもどう細工すればいい?

 それに、もし細工するにしても二年四組の選手に確実に細工した布が当たるようにしなければならない。


「いや、待て」


 思考を加速させて、俺は一つの答えに辿り着いた。


 俺はスマホを取り出して、東雲にメッセージを送った。


 《二人三脚を妨害する。聞きたいんだが、足首を結び合わせる布の色は、クラスごとに違うのか?》




 ■■■■■■■■■■■■■




 俺が考えついた妨害策。それは二人三脚の布への細工。


 五分ほど前に聞いた『二人三脚の足首を結び合わせる布の色』についてだが、東雲はクラス別で色が分かれていると返信してきた。


 俺は最初、布の入ったカゴが幾つか用意され、選手たちがそこから適当に取っていく方式かと思っていた。

 どうやら違ったらしい。


 となれば――ニ年四組の該当色である布に細工するだけで済む。


 俺は付けていないが、各クラス、それぞれ別々の『色』をした鉢巻を身につけている。

 俺は色が認識できないため、どれも白黒にしか見えないが、その辺は坂野に聞けば問題はなくなる。


「――――」


 俺は現在、体育倉庫へ足を運んでいる。


 競技に必要な道具を常に出し入れするため、一日中解放された状態となっている。

 東雲に二年四組の該当色を聞いたところ、『青』だと返ってきた。

 そして、しっかり置かれている場所がわかるように写真が添付されていた。


「脳筋にしては気が利く」


 俺は東雲から送られてきた写真と、現在いる体育倉庫内を照らし合わせながら、二年四組の該当色で二人三脚に使う青色の布を探す。


「――これか」


 俺はカゴの中に手を入れ、一枚の布を手に取った。

 色は白黒にしか見えない布だが、それはいい。

 周囲を見渡し、物の配置を確認して間違いがないかを確かめる。


「二年四組ので間違いない」


 目的の二年四組が二人三脚に使う青色の布を見つけた。


 問題はこれをどう細工するかだが、


「二人三脚は体育祭前半の最終競技だ。今は三年の千五百メートルの競技中……時間はあるが」


 時間はある。しかし、細工の仕方がわからない。


「あいつに聞いてみるか」


 俺はスマホを取り出し、ある『女』に電話をかけた。


「密談室に来い」


『人使いが荒いわね……。わかったわよ」


 相手は、坂野柚葉だ。

 ひとまず、二人三脚の選手の集合がかけられる前に布に細工をする方法を考えることにした。




 ■■■■■■■■■■■■■




「で、何の用なわけ?」


「二人三脚を妨害する。そのために、二年四組が二人三脚に使う布を持ってきた。これに細工する方法を考えてる」


「よく持ってこれたわね……。細工、細工……」


 坂野は腕を組みながら、悩ましげな声を上げて布への細工方法を考えている。


 二分ほど経過した後、密談室に訪れた沈黙を「あ」という声で坂野が割った。


「布に切れ目を入れるのはどうかしら? これなら、時間だってかからないと思うわ」


「布に切れ目……」


 坂野が考えた、布に細工する方法。

 布に切れ目を入れる。


 確かに、二人三脚は短期間で連携を完璧にとるのは不可能と言っていい。兄弟や幼馴染ならまだしも、ただのクラスメイトでランダムに組まれた相手なら尚更そうだ。


 となれば、互いにうまく走ろうとするあまり、布に対する負荷が大きくなる。

 右へ左へ、前へ後ろへと、早く走るために布なんて無いぐらいの勢いで走ろうとする。

 それが、二人三脚だ。


 二人三脚の特性を踏まえれば――簡単に切れ目から布が破ける。


「お前の案でいく。さっさと作業始めるぞ」


「ええ」


 俺たちは密談室に置いてあった鋏を使って、布にバレない程度の切れ目を入れていった。




 ■■■■■■■■■■■■




 ――体育祭前半、午前十一時。


 俺と坂野は、無事に二年四組が使用する二人三脚の布への細工を終えた。

 現在は、肝心の二人三脚が始まる五分前だ。

 坂野は既に、石母田と共に二人三脚の待機列に並んでいる。


 明様校の体育祭は、一年から三年が順番に走る。

 男女五ペアずつ、計十組が二人三脚へ出場する。


「――――」


 一年の一ペア目が早速スタート位置に並ぶよう、体育祭実行委員に誘導されている。


「いちについて!」


 飛び交う嵐のような声援が明様校を埋め尽くす。

 そのことを喧しく思いながら、俺は黙って二年の番まで待つ。


「よーい、スタート!」


 スターターピストルから放たれる爆音が鳴り響いた直後、一年の選手たちは勢いよく走り始めた。

 うまく走れている選手もいれば、相性が全く合っていない選手もいる。

 これが、二人三脚の特性だ。


「――――」


 五十メートルをたったの十ペアしか走らないため、一年の選手は既に最終走者手前だ。

 そのタイミングで、二年の選手は準備に入った。

 それぞれ、該当色の布を互いの足首に結び合わせている。


 それは当然――二年四組も同じだ。

 俺と坂野が切れ目を入れた布をカゴから取り出し、足首に結び合わせる。

 幸い、バレない程度に切れ目を入れていたため、切れ目が入っていることに気づく選手はいなかった。


 一年の最後のペアが走り終える直前、二年の一ペア目がスタート位置に立つ。

 

 今回のレーンは、一番目が一レーン三組、二レーン五組、三レーン七組、四レーン一組。

 二番目が一レーン八組、二レーン六組、三レーン二組、四レーン四組だ。


 男女別、五ペアずつ走るようになっている。

 まずは女子からだ。


 一年の最後のペアが走り終え、はけたのを審判が確認してから、スターターピストルの銃口を上空に向けた。


「いちについて」


 かけ声と同時、スタート位置に立った選手は構えた。


「よーい、スタート!」


 何度目かの爆音。

 直後、二年の一ペア目の走者たちは全速力で走り始めた。


 俺は黙って妨害の成功を祈りながら、競技を見届ける。


「――――」


 一ペア目、転倒者無し。


「――――」


 二ペア目、転倒者無し。


「うまくいったな」


 三ペア目四レーン、転倒。

 二人の女生徒が盛大に前に転んだ。

 足首を見れば、真っ二つに切れた布が落ちている。


 その後も順調に布は切れ、四組の選手は計六ペアが最下位となった。


「どうなってんだよ!」

「待って、再試合したいんだけどー!」

「俺らめっちゃ不利やん」


 と、二年四組の二人三脚出場者含め、結び合わせていた布が次々と切れた事実に嘆いていた。

 あいつらが常日頃、俺を見て不快がったり馬鹿にしたりしてきてたが、いざ滑稽な姿を見るのは気分が良い。

 人の不幸は蜜の味とは、まさにこの事だ。


 そうして、三年のペアが全員走り終えると二人三脚は終了となった。

 同時に、明様校体育祭前半戦の終了にもなり、昼休憩に入った。




 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




「流石だね、逸釆君」


 一つは失格、もう一つは最下位となった二年四組の悲惨な結果を見て、金髪の少年――夜叉甬马は微笑んでいた。


 弱みを握られたことで必死に妨害しているだろう新崎の事を考えると、内から面白さが爆発しそうになる。

 だが、下品な笑みなど浮かべず、内に留めて置くのが品のある生き方というモノ。


「おっつ〜」


「千早ちゃんもお疲れ様。カッコ良かったよ」


「ぁぅ、ありがとう……」


 西棟三階にある、夜叉が同好会として利用している教室に入ってきた赤江千早。

 扉を開けて入ってきて早々、夜叉からの褒め言葉に心を打たれ、顔を真っ赤にしながら壁際で「……甬马」とぶつぶつ呟いている。


「……怖い人、すごい……」


「ひまりちゃんもそう思うかい? 本当に、彼は凄いよ」


 続けて入ってきたのは、物静かを体現している少女、海津ひまりだ。

 時間が無いにも関わらず、とっさの判断で最適な妨害する新崎を素直に凄いと思っている。


 でも、


「……甬马の方が、倍……」


「そう? ありがとう、ひまりちゃん」


 やはり夜叉の方が上だと、小さな笑みではっきりと海津は言った。


「俺もそう思う」


 最後に教室に入ってきたのは、新崎逸釆に直接接触して弱みを使って妨害をさせている尾暮雷だ。


「君は本当に頑張ってくれているよ、雷。ありがとう。引き続きよろしくお願いするよ」


「任せておけ」


 胸に拳をつけ、尾暮は力強く言い切った。


 既に見えている結末を思いながら、夜叉は浮かべていた微笑みを深めて――、


「新崎逸釆君、後半戦もしっかり妨害するといいよ。君にとっても僕にとっても──良い結末が待っているから」





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