第十四話 『最低な選択の代償』
「はぁはぁ……流石に、この、距離は……キツいな……」
俺は、徒歩五十分の距離を短縮するために走って来た。
……そのせいで異常に体力を持っていかれたが。
陸上部を辞めて三ヶ月。辞めた理由は、現状とは全く無関係だが、そのことは今はどうでもいい。
今俺がしなければならないことは──、
「──石母田と東雲の安否確認」
三芳は言った。突然の俺と三芳の会話ですらも、犯人は把握しているだろうと。
俺が土曜参観の日に学校に来ないことを把握するのは、校内でつけていたりすれば可能だ。だが、三芳芽亜との邂逅は一切予告なく、突然発生したことだ。
それを把握するのは『普通』なら不可能だ。
「そう、普通ならな」
俺を貶めるために罪まで犯すほどの相手だ。
既に普通じゃないことぐらい想定済みだ。
「とにかく、今はあいつらのところに急ぐか」
時刻は十六時十五分。今日は、土曜参観の都合上全部活休みになっている。
そのため、保護者も生徒も門の付近に僅かしかいない。その全員が、私服の俺を見て顔を顰めてくるのが心底不愉快だが。
いつもの東棟一階に二人はいるはずだ。帰っているならそれでいい。
……全力で学校に来たせいか、全身が重たいな。
歩きで呼吸を整えつつ、東棟一階へ向かう。
すると、視線の右側の先に一人の女子生徒が歩いていた。石母田かと思い見るが、髪型が違う上に俯いて歩いていた。
前髪を片目が隠れるほど長く伸ばし、全体的にボサボサな髪形だ。
なんだあの赤い斑点。美術かなんかでミスったのか……?
女子生徒の持つスクールバッグに、やたらと赤いインクか何かが飛び散っていた。
「…………」
一瞬、こっちを見ていたように感じたが、まぁいい。今は、
「――待て」
俯いて歩く女子生徒とすれ違って、数歩進んだところで違和感を覚えて俺は足を止めた。
おかしい、おかしいぞ。なんだこの違和感。
あの女に何かあるのか? 暗い雰囲気な女だったが、そこじゃない。
長い前髪、スクールバッグ。赤い斑点……。赤い、斑点。
――『赤い』斑点!?
地に落とされてから、俺の視界から色は失われた! それは今も変わらない!
「今の俺に、色が認識できるわけないだろうが! おい待て!」
振り返ると、門にはまださっきすれ違った女子生徒がいた。しかし、先程とは違い、顔を上げて走りだしていた。
疲労感と三芳に関する驚愕で完全に頭が回ってなかった! クソッ、体力が……!
今ある体力を振り絞り、俺は逃げる女子生徒を追いかけた。
「あの女、はぁ……どこ行きやがった……!?」
人の少ないこの時間、俺のいない土曜参観、そして俺からの逃亡。
まさか、あの女が連続傷害事件の犯人なのか?
「見失った……!」
一旦落ち着け。よく考えろ。
なんであの女のスクールバッグに付いた『赤色』が認識できた? 俺の視界は、変わらず白黒だ。
周囲を見渡しても、月を見ても、電柱の光を見ても白黒のままだ。
考えろ。考えろ、考えろ、考えろ考えろ考えろ考えろ──!
「ま、さか……」
数日前、土砂降りの雨の中で会話した後、ある女の家に行った時の記憶が蘇る。
あの時も俺の視界は白黒だった。だが、あいつの家に行った日から、一部分だけ『色』が認識できるようになった。
その一部分は、今も『色』を認識することができる。
長い茶髪で、自身の今後も考えず、俺のことばかり心配している女──。
「石母田を狙いやがったのか!」
俺は現状、石母田智音以外の『色』を認識できない。それは今なお変わらない。
なのに、さっきの女のスクールバックについた赤色を認識することができた。
つまり、さっきの赤色は──石母田智音の『血』だ。
「今は見逃すが、必ず警察に突き出してやる!!」
すぐ近くに犯人はいる。
ようやく姿を見せたのに逃すのは惜しいが、今は石母田の安否確認が最優先だ。
俺は急いで東棟一階へ向かった。
「いない! どこだ!?」
他に思い当たる場所を考える。
教室は確実に人目につく。それに石母田は、俺と関わりがあるのを学年中に知られている。
教室からさっさと出て、この場所に来るはずだ。
なら、あの場所以外考えられない!
「保健室だ!」
保健室は西棟一階の奥。今俺が立っている場所の真反対に位置している。
東棟と西棟を繋ぐ渡り廊下を走り抜け、角を曲がると蹲る人影が視界に入った。
「──っ! 石母田!! おい石母田!! しっかりしろ!!」
「……あら、ざきくん?」
──石母田が右肩を抑えて床に座り込んでいた。
「何があった!?」
「黒い、ローブを着た人に……細長い、うっ……!」
「ゆっくりでいい!」
「細長い、棒みたいな物に、何回か右肩を突き刺されて……」
細長い、棒みたいなもの……?
「悪いが傷を見せてもらうぞ!」
「……うん」
俺は抑えていた石母田の左手をどかし、学ランを脱がした。
「おい、嘘だろ……」
右肩から右手にかけて、白いワイシャツが赤く染まっていた。
右肩を見れば、複数回突き刺されたような跡があり、傷も深く大きいのがわかる。
「錐、か? 確認は後だ! 石母田! 持ち上げるぞ!」
「うん、だい、じょうぶ……」
ここから保健室までは後少しだ。
俺は石母田を両手で抱え上げた。
「うっ……!」
石母田は、今も激痛に苦しみ続けている。できるだけ移動による衝撃が石母田にいかないように俺は走った。
そして保健室前に辿り着き、
「甘村! 甘村先生!! いるか!? いるなら出てきてくれ!!」
「どうしたんで……嘘、石母田さん!? 何があったんですか!?」
「説明は後だ! 今すぐ車だせ! 病院に連れて行くぞ!」
「わ、わかりました! ついて来てください!」
俺は甘村の背後を走り、学校の駐車場へと向かった。
駐車場に着き、甘村が軽自動車に鍵を向けてスイッチを押すと、車の鍵が開いた。
「乗ってください! 石母田さんは後部座席にお願いします!」
「あぁ!」
石母田をゆっくりと後部座席に寝かせて、俺は助手席に座り、甘村は運転席に座った。
「石母田さん! 大丈夫ですか!?」
「は、い……」
「少し揺れますけど、もう少しの辛抱ですから……!」
甘村の瞳には、涙が溜まっていた。だが、今は触れる余裕がない。
車が動き出すと同時、石母田が再び苦鳴を漏らす。声から痛々しさが伝わってくる。
車なら、病院までは幸い十五分程度だ。
悪いがもう少しだけ、耐えてくれ。
「それで新崎君、やっぱり石母田さんは連続傷害事件の犯人に襲われたんですか?」
「あぁ、間違いない。さっき門ですれ違ったが、見失った」
「どんな人でしたか?」
「俺が見たのは、前髪を長く伸ばした女子生徒だった。前髪のせいで顔はよくわからなかった」
「うーん、今日は沢山の人が来ていましたし、一概に誰と判断するのは難しいですね……」
せめて顔が確認できていれば、事件も一気に解決できたんだが。
「石母田さんは何か言っていましたか?」
「石母田は黒いローブを着た奴に、細長い棒で刺されたって話してた。場所は右肩だ。確認したが、傷口から察するに錐の可能性が高い」
「錐⁉︎」
「それも刺されたのは一回だけじゃない。複数回刺された跡だった」
再び、石母田の刺された右肩の傷を思いだす。
幾つもの穴が連なり、傷口はかなり深かった。
残酷なやり方を見て、犯人に対しての憎悪が膨れ上がる。
今回の凶器は、錐が妥当だろう。しかし、以前甘村が得た他二人の被害者の傷跡とは異なっていた。
一人が切傷、もう一人が打撲。そして今回が刺傷。
敢えて凶器を変えて、犯行を行なっているのだろう。凶器の特定をされても問題ないようにするために。
犯行は、今まで無差別に明様高の生徒を対象として行っていたが、今回は違う。
石母田を狙ったのは、間違いなく前から計画していたことのはずだ。
俺の行動を全て把握しているのなら、当然石母田と関わっていることも知っている。
俺を貶めるために必要な材料。それが――石母田智音だ。
東雲は、校内には俺と関わりがあることを知られていない。そのため、校内の人間で関わりがあると広まっているのは石母田だけとなる。
石母田を被害者にすることによって、周囲の人間からは『やっぱり石母田を狙っていた』という認識をさせることができる。
ただ貶めるためだけじゃない。
あの犯人は、確実にどん底にたたき落とすことで、徹底的に俺を貶めようとしてきている。
「着きました」
気がつけば、病院に着いていた。
俺は車を降りて、後部座席に横たわる石母田に「病院だ」と言って、もう一度石母田を両腕に抱えた。
小走りで病院の中へ駆け込み、受け付けを済ませる。
「どうされ……これは!」
「肩を錐かなんかで複数回刺されてる。今すぐ手当してくれ」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
内線で医者と看護師を呼び出し、石母田をストレッチャーに乗せて手術室まで運んで行った。
「……石母田さん」
甘村は俯きながら立ち尽くしていると「あ!」と言って、
「石母田さんのご両親に連絡してきます!」
「ああ」
そういえばそうだったな。石母田は事件に巻き込まれたんだ。動揺して、報告することを忘れていた。
「悪いな、石母田……」
胸中が罪悪感に支配されていく。
元はと言えば、他の誰でもない──俺のせいでこうなった。
土曜参観で保護者に何かされたり、言われたりするのを避けるために休んだ。
俺が学校にいれば、石母田は助かってた。
俺のせいで、石母田を傷つけた。その事実に、罪悪感が増していった。
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「――逸釆!」
甘村が問題の報告をしに学校に戻ってから、数十分後。
左側から声が聞こえ、視線を向けると、そこには東雲の姿があった。
「東雲か。お前、今まで何してた?」
「本当にごめん……急遽総合格闘技の道場に来てくれって、言われて……約束守れなかった」
「謝るなら石母田に謝れ。それに、石母田が被害者になったのは、俺の責任だ」
「そんなこと……!」
「ないって、言い切れるか?」
「──ぁ」
俺は再び、石母田が手術を受けている正面の手術室へ視線を向けた。
「隣。いい?」
「ああ」
東雲は静かに俺の隣に座った。
「さっきの、総合格闘技のことだけど……急遽来てくれなんて、言われてなかったんだ」
「は? どういう意味だよ」
「道場に着いて、急いで練習試合の準備して、遅れてすみませんって電話かけてきた先生に言ったら、お前今日は休みだろって」
「つまり、偽の電話だったってことか」
「うん、そうだと思う……」
何らかの手段で東雲のスマホの電話番号を得て、変成器を使って電話をかけたってところか。
ん? 何らかの手段で東雲の電話番号を得た……?
そこまで考えて、俺の脳内にある推測が思い浮かんだ。
「俺も今日三芳と会った」
「え!? 三芳と!?」
「家にいたら、突然ショートメールが送られてきて、宛先を確認したら三芳って書かれてた。最初は疑ったが、行っても行かなくてもデメリットが生じると思って、あいつに会ってきた」
俺はスマホを取り出して、東雲につい数時間前に送られてきたショートメールを見せながら、三芳と会ったことを話し始めた。
「それで?」
「俺を貶めた理由が、俺の辛そうにしてる顔を見るためとかほざいてたな」
「そんな、理由で……!」
「今はいい。もう一つの話は、連続傷害事件についてだ。あいつは即座に犯人であることを否定してたが、問題はその後の発言だ」
俺は、東雲の方へ再度視線を向けた。
「三芳は、俺と三芳が会って話していることすらも把握して、動いてるんじゃないかって言ったんだ」
「いやいやいや! そんなのありえないでしょ! だって、逸釆は予告もなく三芳からショートメールが送られてきたんだよね? 二人とも学校に来てないのに、そんなの……」
「──ハッキング。なら、どうだ?」
東雲にかかってきた変成器を使った偽の電話。
三芳が言った俺と三芳が突然会って話しているのを把握している可能性、そして、俺の行動を余す事なく全て把握している事実。
俺のスマホがハッキングされているなら、どこで何をしているか、誰からどんな電話がかかってきて、メールが送られているかなど全て把握できる。
「じゃあ、この会話ももしかして」
「聞かれてる、かもしれないな」
東雲は、驚愕に目を見開いた。
ハッキングなんて考えもしなかったが、ここまで条件が揃えばそうだと思わざるを得ない。
「「――――!」」
正面の石母田が手術を受けている手術室の扉が開き、そこから一人の男の医者が出てきた。
俺たちは椅子から飛ぶようにその医者に駆け寄った。
「あの、石母田さんは!?」
「命に別状はありません。無事手術は終わりましたよ。今は眠っていますので、お声をかけるのであれば、明日にしてあげてください」
「はい! ありがとうございます!」
「――――」
全身が安堵感に満たされていく。
とにかく、石母田が無事でよかった。
「この後どうする?」
「お前はもう帰れ。俺は、石母田の病室で朝まで見張りをする」
「いや、それなら俺が!」
「さっきも言ったが、石母田が被害者になったのは俺の責任だ。それに今日一日お前に任せてて、俺は家にいただけだ。だから、俺がやる」
「……そっか。何かあったらすぐ連絡して! 飛んで駆けつけるからさ!」
「ああ」
俺は、その場から去っていく東雲の背を見送った。
東雲の背を見送ってから、俺は石母田の運ばれた病室に配慮、眠っているベッドの横に丸いパイプ椅子を置いて座った。
「お前には、悪いことをしたな……」
石母田は、常に俺を気にしてくれていた。
周囲の目を気にせず、最初に俺を地獄から救おうとしてくれた。
そんな相手を、俺は傷つけた
「必ず、俺が犯人を捕まえる。そしたらまた、ゆっくり話そう」
俺を貶めるために被害者をだした犯人には、制裁を受けてもらう。
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──瞼に陽光がさし、眩しさにゆっくりと目を開いた。
「ん? 朝か。まずい、なに寝てんだよ俺」
見張りをするんじゃなかったのかよ。
「──おはよう、新崎くん」
「──っ」
声の聞こえた方へ視線を向けると、ベッドに足を伸ばして座り、微笑みながら俺を見ている女──石母田智音が目を覚ましていた。
「起きたてたのか。眠れたか?」
「うん、新崎くんのおかげで」
「俺は何もしてない」
「でも八時ごろ起きた時、頭がフラフラになりながら扉の方を見張ってたよ」
「起きてたなら声かけろよ……」
記憶が曖昧だが、俺はしっかり見張りやってたんだな。
「その、えっと……助けてくれてありがとう」
「礼はいらない。そもそも、俺がお前を事件に巻き込んだんだ。礼を言われる理由なんか俺には最初からない」
そう、俺は石母田に感謝される理由はない。
石母田も俺に感謝を言う必要はない。
しかし、石母田は「ううん」と言って、
「新崎くんは、土砂降りの雨の日に話した時から、わたしのことを心配してくれてた。権利とかじゃないよ。わたしが、したくてしてることだから」
「……お前」
つくづく調子の狂う女だよ、石母田は。
「それで、今はどうなってるの?」
「あぁ、少し長くなるが、お前が刺されてからの話をするか」
それから俺は、昨日石母田が謎の黒いローブを着た何者かに刺されてからのことを事細かに話した。その中に、俺が三芳と会ったことや新たに得た情報と可能性についても加えて話していった。
「……新崎くんが三芳さんに何もされてなくて良かった」
「俺じゃなくて自分の心配をしろ」
「ふふ」
──コンコン。
「あ? 誰だ?」
「病院の人かな?」
「俺が出る。お前は座ってろ」
一通り会話を終えたところで、鼓膜に病室の扉を叩く音が聞こえてきた。
俺は身構えて、扉をゆっくりとスライドして──、
「おはよう逸釆! 石母田さん!」
「なんだよしの……おい、あんたら誰だよ」
扉を開け切り、うるさいほど大声で挨拶をしてきた東雲の背後、スーツを着た二人の男が立っていた。
「──君が新崎逸釆君だね」
「そうだが、あんたらは?」
「すまない。埼玉県警捜査一課の淡土だ」
「僕は瀬波」
「警察?」
最初に挨拶をしてきた方は、ハンチング帽を被った五十代くらいの男、後に挨拶をしたのは細身の若い青年だった。
「ごめん、逸釆。言い忘れてたことが……」
「あ?」
「実は俺と石母田さん、昨日警察の瀬波さんと会ったんだ」
早く言えよ。にしても警察か。俺を逮捕しに来てなければいいが。
「何のようだ?」
「事件について、話を聞かせてもらえないかな」
「それはこっちも聞きたいんだが」
「なら、交換条件でどうだね?」
「――。それなら構わない」
ひとまず、俺を捕まえに来たわけじゃなくて安心した。
交換条件と言われ、俺はそれを承諾した。学生の範疇じゃ、既に手詰まりだったからな。
俺たちからは、昨日石母田が被害に遭ったことについてを話した。
俺が交換条件で要求した情報は、既に甘村から聞いていた二人の連続傷害事件の被害者以外、残り五人の被害者の情報だ。
「個人情報だから人名は伏せさせてもらうよ」
「構わない」
「じゃあ、まずは一年生から。被害者は二人。一人目は、二年生の女子生徒で被害時刻は九時五十分、場所は校舎内。左膝に擦過傷、左脚骨折。二人目は、男子生徒で被害時刻は十八時十五分、場所はデパートの地下駐車場。右太ももに刺傷」
「────」
「次に二年生。一人は既に聞いているようだから、私からは、三人の被害者情報を。一人目は、女子生徒で被害時刻は十九時二十分、場所は近所のコンビニ裏。右腕に二本の引っ掻き傷。二人目は、男子生徒で場所は自宅近辺。腰の辺りに円状の火傷の跡」
「────」
「三人目は、女子生徒で時刻は十五時、場所は明様高校の校庭。右頬に切傷。これで全員だ」
……学校内での被害者が他にも二人いたのかよ。
もっと早く知ってれいば、事件の早期解決ができたはずだ。
悔やんでも、事件解決には何の役にも立たない。俺がしなきゃならないのは、今の被害者情報から重要な内容を纏めることだ。
まず、最重要なのは甘村から聞いた二年の女子生徒と、淡土から聞いた一年の女子生徒二人を合わせて、校舎内で被害に遭った生徒が合計で三人いるという事だ。これで、犯人が明様高に通う生徒であることが確実になった。
予想はしていたが、やはり犯行に使っている凶器と傷跡はバラけさせていた。
後は、この情報を基に明様校内から探しだすだけだ。ただ──、
「どうしたの新崎くん?」
石母田が狙われたのは俺の責任だ。同じ過ちを繰り返すつもりはない。
だが、既に俺一人で犯人探しはできない状況に陥っている。
頼るしかないのか――。
「頼みがある」
「何かね?」
「──石母田を守ってくれ」
俺の発言に、病室内にいた全員が目を見開いた。
「もちろん、そのつもりだよ。私たちはそのためにここにいる」
「助かる。俺だけじゃ手が足りなくなってたからな」
十分な手がかりは得てる。
石母田の身の安全の問題さえ保証できれば、俺は動ける。
「……無理はしないで」
病室を出ようとした俺の背中に声がかかった。
「必ず戻ってくるから安心しろ。俺を偽りの事実で嫌悪してる奴らを喜ばせないためにな」
「うん……!」
石母田は、俺の言葉を聞いて微笑みながら返事をした。
初めから、相手に敗北するつもりなんて毛頭ない。
俺が屈したり、辛そうにしたり、苦しそうにしたりすることで喜ぶ奴らがいる。俺はそれを受けるのが、心底不愉快だ。
だからこの連続傷害事件を解決して、後の面倒を回避する。
俺は病室を出て、その場を後にした。
現時刻は十一時。
日曜なこともあって、病院の周囲は人が少なかった。
「犯人はすぐ近くまで来てる。さっさと帰って、今日までで得た情報を再確認したいところだが……クソッ、なんで財布持ってこなかったんだよ」
昨日は、土壇場な状況下に置かれてたんだ。仕方ない。
甘村はまだ病院には来ていない。警察を頼る手も考えたが、まだ完全に信用はできない。
人物じゃなく、警察自体がそもそも信用できない。
確実性がなければ動かないような奴らを、信用する気にはなれない。
「あいつらを信用するかについては、今は後回しだ。とにかく家に、ん、んん!? んぅ!?」
口を抑えられてる!! 早くふり、ほど、い――。
────。
──────。
────────────────。




