第十一話 『進展なしと新たな動き』
一週間が過ぎ、俺たちは未だに犯人を見つけられずにいた。
事件が解決できないという最悪の可能性に焦りを感じながらも、何もしないわけにはいかない。
次の行動を伝えるために、東棟一階の隅に石母田と東雲を呼び出し、俺たちは集まった。
「全然犯犯人見つからないね……」
「ったくホントだよ! 一週間みっちり探してるのによぉ……」
校内の生徒、その可能性が高いと判断し、生徒と教師だけでなく、カウンセラーやOBの卒業生なども見張り続けたが、何一つ新たな情報を得られなかった。
甘村も新たな情報は得られないことに嘆いていた。
目をつけた二人の不登校生に関しては、何の動きも見られなかった。。
「クソっ……」
……相手の方が一枚、いや二枚以上上手ってことか。
校内の人間なら何かしら進展があってもいいだろ。
床を見つめ、沈黙の時間が続いた。
「話は全然変わるんだけど……」
「あ?」
沈黙を終わらせたのは、長く茶髪を伸ばした女子生徒、石母田だ。
「新崎くん、今週の土曜日は参観日だから、学校は休んだ方がいいと思う……」
そういえばそうだったな。
参観日は、多くの保護者が学校内に滞在する。となると、俺が校内にいるだけでどんな仕打ちを受けるかわからない。
石母田の言う通り、休んだ方が――、
「どうした逸釆?」
俺が目を見開いてるのを東雲が気づいて声をかけてきた。
俺は顔を上げて二人の方へ視線を向け、
「犯人は学校内の状況を知っている。そうでないと都合良く犯行を実行できない。だから当然、今週の土曜に参観日があるのを知ってる上に――俺が休むことも想定してるはずだ」
「「⁉︎」」
六月三十日の犯行以来、新たな被害者は今日まで出ていない。おそらく、参観日までの日を狙っていたのだろう。
しかし、俺を被害者にすれば俺を犯人にはできなくなる。だったら、
「犯人はお前たちのどちらか、あるいは俺を狙う。お前たちなら、俺を貶める策だったことが確定する。だが、俺が狙いならまた話は変わってくる。警戒は怠るな」
「うん!」
「了解っ!」
「それと東雲」
「ん?」
「絶対に石母田を傷つけさせるな。俺と石母田が関わってることは、学校中に知れ渡ってる。もし傷つけられれば疑いが晴らせなくなる」
「任せとけ。それと、俺の心配は……?」
「お前は並外れた強さだから問題ないだろ。言うなら――被害者にはなるな。後が面倒だ」
「素直じゃないなぁ」
東雲は俺の返答に苦笑した。
これは危機でもあるが、大きなチャンスでもある。逃せば次のチャンスがいつ来るかはわからない。
絶対に逃さないと、俺はそう決意した。
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ーーとある警察署にて。
「お疲れ様です。ブラックでいいんですよね?」
「ありがとう、瀬波君」
黒いスーツを綺麗に着こなし、髪をワックスで整えた黒髪の長身警察官――瀬波爽は、頼まれたコーヒーを、デスクの前で何十枚もの書類と向き合う海松色のハンチング帽を被った上司の警察官へ渡した。
「それ、明様高校の連続傷害事件のやつですよね」
「うん。未だに犯人の手がかりが掴めず困っていてね」
言いながら右手に持ったコーヒーを啜る瀬波の上司――淡土正仁は重い顔つきだ。
「最初の犯行から何一つ動きが無く、凶器は複数。被害者はいずれも明様高の生徒だ。なら、自然と校内の人間だと予想がつくけど、捜査しても全く証拠が出ない。驚かされたよ」
「でも確か、学校側から犯人の有力候補が掲示されてませんでした?」
「されたけども……」
大量の書類を左右にどかすと、その下から一枚の写真が出てきた。
明様高の黒い制服を着用し、整った顔立ちをした男子生徒が写った一枚の写真だ。
そしてそれは、現在明様高全体で犯罪者として扱われている生徒で――、
「――新崎逸釆君。十七歳の校内でも有名な生徒だそうだ」
「それは、素行が悪いとかで?」
「それがね、学力も高く、運動神経も抜群で数々の学校行事に率先して参加している人気者の生徒だったそうだよ。ただ」
「ただ?」
「今年の四月、同学年の女子生徒に暴行を振るったと」
淡土の正面に立つ瀬波は驚愕に目を見開いた。
「一体どうして……」
「そこまでは教えてもらえなかったよ。――。」
淡土は眉間に皺を寄せて考え込み始めた。
唐突な変化に、瀬波は何事かと思ったが、何故淡土が思案しているのか、その答えはすぐに出た。
「もしかして、彼が犯人ではないと考えていますか?」
「いや、犯人の可能性はあると考えているよ。だけど、色々とできて真面目だったから、校内で人気者だったはずだ。そんな子が暴行なんてマネをするのかと引っかかっているんだよ」
「確かに、僕もそれは思いました!」
新崎逸釆という少年は、学校で聞いた話ではあらゆる面で優れていると淡土は聞いた。言い換えれば『何でもできる』存在だったようだ。
素行の悪い生徒なら、暴行を振るってもおかしくないと考えるが、新崎逸釆はそうではない。
常識のある人間なら暴行なんて考えもしないはずだ。
「気になる点は、それだけじゃない」
「他にもあるんですか?」
「私が話した教師は確か、半田という名前の、新崎逸釆君の担任教師と明様高校の校長先生だった。話をするために教室に入った直後、半田先生はズボンのポケットから一枚の紙を取り出したんだ」
「ーーーー」
「私と橋本君が席に座って話し始めるまで、その紙を半田先生はずっと膝の上に置いて持っていた。そして話し始め、我々の自己紹介と学校側の自己紹介を終えると、半田先生は写真を机に出し、事件について話し始めた。話していた時の彼女は、とても落ち着いていたよ」
「それが……」
「――新崎逸釆君の写真だ」
淡土は右手に新崎逸釆が写った写真を持ち、瀬波へ写真を向けた。
「半田先生の話は新崎逸釆君を犯人と疑っているというより、確実に犯人だと決めつけているようでね。事件の証拠は未だになく、新崎逸釆君がやったという証拠も当然ない。それに疑いを掛けるのがこの子一人なのもおかしいと、私は思っているんだよ」
「新崎逸釆君だけというのが、そもそも変ですよね」
最近に問題を起こした生徒を真っ先に疑うのはわかる。
しかし、学校側は『新崎逸釆だけ』を犯人と『決めつけている』のだ。
ただ疑っているだけならまだしも、証拠もないのに犯人と『決めつけている』のはおかしい。
生徒ではなく教師の可能性だってありえる。素行の悪い生徒かもしれない。校内ではなく郊外の人間だって考えられる。
それなのに何故、新崎逸釆だけなのか。何故、『決めつけている』のか。
「瀬波君、今週の土曜日に授業参観があるそうだ。ちょっとした捜査に行ってきてもらえないかな?」
「はい! もちろん!」
「ありがとう。行く時は私服で。もし話を聞けそうな保護者、教師、生徒がいれば話を聞いてきてもらいたい」
「わかりました!」
瀬波は淡土に敬礼し、部屋を出ようと扉に手をかけた――直後。
「あ、瀬波君」
「はい?」
淡土に呼び止められて瀬波は振り返ると、
「お礼は行きつけのラーメン屋で大丈夫かい?」
「いやいやいや! いいですって! 仕事ですから! それにこの間奢ってもらったばっかですよ? 他の部下にも奢ってますし、淡土さんのお財布が底つきますよ……」
「はは。気をつけて行きなさい」
「はい!」
瀬波は淡土からの心配の声を受けた後、部屋を後にした。
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ーー土曜日、授業参観当日。
俺は、自宅の自室で今回の事件について改めて整理していた。
「一人目が三年の男で時刻は十六時。場所は正門を出てすぐ右に曲がった路地裏。二人目が一年の女で、場所は下駄箱、時刻は昼の十一時。被害者はいずれも明様高の生徒。校内の生徒に目を付けてはいるが、ここまで見つからないのか。クソっ、手がかりが少なすぎる」
犯人が明様高内の生徒、性別は女と見てこの二週間探してきたが、七人目の犯行以降動きが一切なかった。
不登校の三人の女子生徒が怪しいと踏んで、話しかけても言葉を発さない未花以外の二人を警戒してたがそいつらにも変化はない。
本当に、手がかりが少なすぎて探す気力が失せてくる。
だが、探さないわけにはいかない。ここで諦めれば、俺は冤罪で捕まる。わかってはいるが――、
「学生の範疇じゃ厳しすぎる。特に俺は、犯人探しするには状況が最悪だ」
地に落ちる前の俺なら、周囲の奴らと協力でもして速攻見つけだせただろうが、ほぼ全生徒、全教師に嫌われてる現状でそんなのは夢物語だ。
事の元凶である三芳の顔が脳裏に過ぎる。信じてた相手が事の元凶であることに、未だに心痛がする。
「チッ。今日動きがあるのに賭けるしかないか」
土曜参観で俺は学校にいない。俺が狙いなら、犯人は確実に今日動くはずだ。
通常通り学校に登校しただろう石母田と東雲には、警戒しておくよう伝えてある。
今は、あいつら二人からの報告を待つしかないか。




