第一話 『進級』
──夕日さす学校の外周を、俺は走っていた。
全身から熱気を放ち、汗を流しながら五百メートルあるコンクリートの上を走る。
埼玉市立明様高校陸上部の練習を全て終えた後のダウンだ。
授業が十五時半に終わり、そこから六時までぶっ続けでの練習。土日以外毎日行なっている。
外周を走り終え、西門から校舎へと入り体操を行う。部員は合計で六十人。西棟校舎前、バレー部の練習しているすぐ隣で体操をする。
陸上部員は体操のかけ声以外、一切会話をしない。顧問の藤堂先生がいるからだ。
一年の学年主任でもある彼は常に強面だ。
怒った時はとてつもなく怖い。たまに藤堂先生がいない時の陸上部は、実に賑やかなものになる。
体操を終え、俺たちは男子の更衣室へと戻った。
「いやぁ、今日も疲れたわ〜」
「逸釆、練習熱心だもんな」
「……悪いかよ」
「ん? 悪いわけないだろ」
にっ、と笑いながら同じクラスで親しい陸上部の仲間――皆川隆貴が返事をした。
「じゃ、また明日な」
「おう」
俺は制服に着替えてから荷物を取り、駐輪場へ向かった。
背後から「明日学校で!」と言われたのに対して、振り返り手を振った。
自転車に乗って校舎を抜け、俺は一直線に自宅に帰ることにした。
自宅から学校まで自転車で一時間半かかる。徒歩だと二時間以上だ。電車に乗るのが一番早いが、色々あって電車には乗らないようにしている。
自転車に乗ること一時間半。自宅に着き、俺は黒い扉を開いて中に入った。
「ただいま」
「──おかえり逸釆」
出迎えてくれたのは母さんだ。
俺の家は、俺と母さんと父さんの三人家族。互いに仲が良く、旅行にも結構行っている。
リビングに入ると、机にはパンとシチューが置かれていた。汗でベタベタな臭い体を早く洗い流したかった俺は「いただきます」と言って夕食を流しんこんだ。
「ごちそうさま」と言って、すぐに風呂場へと直行。服を乱暴に脱ぎ捨て、浴室に入り、速攻で全身に石鹸を付けてシャワーで洗い流した。
シャワーを浴び終え、俺は自室へと戻った。
俺の部屋は、教科書の置かれた本棚と勉強机、そしてベッドという至って普通の部屋だ。
時刻は八時を回っていた。三時間ほど勉強してから、明日の準備をして俺は眠りについた。
──一週間後。
四月六日、月曜日。今日で俺──新崎逸釆は高校二年になる。