エピソード4 キープ・イット・リアル
今日もモンスターは朝日が昇ると同時に眠りにつく。
夕方に目を覚まし、冷蔵庫の中の食材と炊飯器の中の米を加減も考えず貪り尽くした。
夜、姉と母親が寝静まってからが、モンスターの行動時間となる。
真夜中の自由時間。
いや、スーパーエリートニートの俺は常に自由なのだが、真夜中が一番落ち着くのだ。
しかしながら最近は、ネットゲームにケンがログインしないので退屈でいる。
ネットサーフィンを適当に済まし、YouTubeを適当に見て、少しして無駄に時間を潰していることに気付いて、自分がいかにつまらない人物だということを思い知らされて、また悲しくなって、壁を殴ったりした。
そんな日々を繰り返しながら、変わりたいという気持ちがあるのに変われないモンスターは、生きること自体が戦いで、日常こそが戦場となっていった。
「きっと高校にも俺はいかないんだろうな。」
このままただダラダラしていていいのだろうか。
そんなことを思っていたある日、ケンが突然 家に来た。
「なぁー!俺は北情に行くぞ!」
私立北部情報高等学校、通称"北情"
パンフレットを片手に俺に会いに来てくれた。
なんでも、一緒にやっていたネットゲームの制作会社も気になっていたのと、情報処理はこの先きっと必要になると思ったからということらしい。
「テツもそこ行けよー!」
それを伝えに来たようだ。
「…中学行けてないし、俺、こんなんだし、高校なんて無理だよ。」
ケンに弱音を吐く。
するとケンは、
「まぁ、北情は、中学行けてなかった人もたくさんいるらしいから、受ければほぼ行けるみたいだぞ!」
と答える。
「…まぁ、せっかく来たんだから、ケン久々に遊ぼうぜ!」
とりあえず後で考えればいいや と俺は思い、久々にケンを家に迎え入れた。
適当に最近流行っているアニメの話をしたり、ゲームをしたり しているうちに、母親が帰って来る。
その後 ケンは俺の母親に挨拶をした後、
「そろそろ帰るわー」
と言って帰った。
その夜、久々にケンがネットゲームにログインしていた。
俺は少し迷ったがフレンドチャットを送ってみることにする。
「なぁ、最近お前、菅野と仲良いんだろ?だからログインしてなかったの?」
菅野とは、中学の同級生で、ケンが中学三年生ではクラスが一緒になったことで仲良くなった奴のことだ。
「まぁ最近はよく一緒に遊んでるな。」
ケンからチャットが返って来る。
ズキンッ
胸が痛くなった。
引き篭もりの俺のリア友はケンだけらだから、嫉妬なのか、独占欲なのか、寂しさなのか、そんなものを感じていた。
「菅野は北情行くの?」
俺はそんなことをケンに聞く。
もしそうだったら、俺 北情で上手くやれるだろうか。
「いや、あいつは舞鶴受けるらしい。」
ケンからそうチャットが返って来た。
俺は内心嬉しかった。
だって 北情行けば またケンと仲良く出来るかもしれない。
中学は 太ってしまったことを同級生からイジられたりするのも嫌だから行く気になれないけど、高校からやり直せるかもしれない。
そんなことを考えていた。
…向き合う時が来たのかもしれない。
いろいろと俺なりに考えたつもりだ。
次の日の夜、母親に久々に話しかけてみることにした。
「…中学はもう行きたくない。でも、高校からやり直せたらなって思うんだけど。」
勇気を出して母親に伝える。
すると母親はなぜか涙を流し始めた。
俺は内心 慌てる。
(どうして泣いているんだろう?)
すると、
「…高校は行ってほしかったの。」
母親は泣きながら、そう言った。
きっと今の引き篭もりの俺に思うことがあり辛かったのだろう。
俺も申し訳ない気持ちになり泣きそうになる。
「…母さん頑張るから、行きたい高校に行きなさい。」
涙を拭き笑顔でそう言ってくれた母親に、俺は少し救われていた。
「…ありがとう。」
高校からは頑張る。
何かが変わりますように。
俺は祈るように、それから少しずつ引き篭もりをやめるように頑張った。
中学校には行きたくなかったから、学校には通わなかったけど、散歩くらいは出来るようになっていった。