エピソード1 アンサー・イズ・ニア!
ギリギリ引き篭もりになる前のことだ。
12歳、1年生、夏休み、母親に連れられて姉の演奏をコンサートホールに見に行った。
この時、俺は寝不足で、いびきを掻いて眠ってしまったものだから、母親にめちゃくちゃ怒られたことを覚えている。
姉は吹奏楽部に所属しており、当時全国常連の強豪校である女子校に通っており、コントラバスを担当していた。
今思うと、高校一年生で演奏メンバーってことは、それなりに上手かったのだろうか。
確かに、中学一年生の頃から 吹奏楽部でコントラバスを担当していたし、それ以前は ずっと小さい頃からピアノを習っていたので、多分優秀だったんだろう。
さほど姉に興味がなかった俺は 何も気にしていなかったし、なんなら音楽にも毛頭 興味がなかったものだから、当然どれくらい凄いかなんて、分かるはずがなかった。
13歳、中学二年生、夏休み、またもや母親に連れられて姉の演奏をコンサートホールに見に行かされた。
この時の俺は引き篭もりだった。
"親が離婚した"
それだけの理由で、14歳を目前に控えていた 少年は心を壊してしまう。
無気力で何も出来なくなって内に篭るようになっていった。
そんな俺を見兼ねた母は、頑張る姉の姿を見てほしかったのだろう。
気付けば半ば無理矢理、姉の演奏を見ることとなった。
実際は、姉も精神的には不安定だったようで、父親の罵声、母親の悲鳴、間に挟まれながら、吹奏楽どころではなかったのだが、それでも全国を決める大会でしっかりと金賞を取ったのだ。
姉が初めて格好良く思えた。
自分とは違って何者かであるように思えた。
間違いなくこの日、俺の中に"音楽"という概念が生まれる。
気付くのは、もっと先なのだが、興味のないものから、惹かれるものへと変化していった。