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勇者乙の天路歴程  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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006『出発』

勇者乙の天路歴程


006『出発』 





「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」


「わ!?」



 たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!


「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」


「あ……」


 胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。


「では、インストール!」


「あ、ああ……」


 ブルン ブルブルブル!


 公園が回る、いや、わたしが回っている!


「目をつぶって! 酔っちゃうから!」


「は、はひぃ!」


 子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。


 そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー! 目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。


 目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。


「はい、もう大丈夫ですよ」


「ゼーゼーゼー……気持ち悪い……」


 うな垂れると、胸の光は充電の終わったバッテリーのよにグリーンに変わっている。


「ええと、この姿は?」


「デフォルトの勇者コスです」


 白というか生成りのツ-ピース。資料集とかで『古墳時代5世紀ごろの衣装』で紹介されているやつだ。生地は麻、全体にダボッとしていて、やっと啓蟄が過ぎた時期には寒い。髪を触るとミズラに結ってあるし、けっこう恥ずかしい。


「やっぱ、そぐわないかなあ……エイ!」


 ブルン ブルブルブル!


「うわ!?」


 また回る!


 さっきの半分ほどで回転が止まって、目を開けると、アニメやゲームでよく出てくる勇者のコス。


「うん、やっぱり今風がいいようですね」


「あのう、まだお受けしたわけじゃ」


「ええ!? 断ったら……」


 ジジジ


 消えかけの命の蝋燭が出てくる(;'∀')。


「わ、分かりました(-_-;)」


「右手で胸の前で線を引くように指を動かすとインタフェイスが出てくるから、時どき確認してくださいね。機能は、習うより慣れろでいきましょう。中村さんはゲームとかで取説とかチュートリアルとかはやらない方でしょ?」


「ああ……」


 息子やカミさんはよくゲームをやっていたが、わたしは家庭サービスに付き合い程度にしかやったことが無い。


「ああ、それが家庭不和の原因だったかもしれませんねえ」


「心を読まないでください」


「ごめんなさい。そうね、時間もあまりありませんね。では次に……名乗りを決めます」


「名乗りですか」


「本名でも構わないのですが、先に何が待ち受けているか分かりません。本名を名乗っていると、そこから付け込まれることもあります……そう、勇者乙と名乗ってください!」


「え、お、おつ? 甲乙丙丁の乙ですか」


「よかった、中村さんは甲乙丙丁の分かる人なんだ」


「は、はあ、父が兵役検査で乙種だったものですから」


 微妙に凹む。


「ああ、そう言う意味でじゃないんです。いや、そうなのかなあ?」


「は?」


「乙って言っておくと、甲があるような気がするじゃないですか『俺に手を出したら甲のやつが黙っていねえぜ!』とかね『甲にランクアップしたときを覚えてろよ!』とかね」


「なんか、子どものつっぱりみたいですねえ(^_^;)」


「アハハ、まあ異世界旅行も乙なものってノリ的な?」


「あははは(大丈夫かなあ)」


「では、最後の最後に……」


「え、なんですか?」


 神さまが印を結ぶと、ベンチの前の石碑がブルブルと震え出した。


「え、なんですかあれは?」


「わたしの荷物入れ。神社があったころは宝物殿とかに入っていたもの……なんだけどぉ」


「普段はゴロゴロのキャリーにしてます?」


「うん。いつ、この地を追われてもいいように可動式にしているの」


 きっと追われる時は、お婆さんの姿であれを押していくんだろうなあ……ちょっと可哀そうになってきた。


「あの中に、あなたのお供にピッタリなのがいるんで、道連れにしてあげようと思ったんだけど」


 ああ、そう言えば勇者とか冒険者の旅には小動物や妖精やらがお供に付いている。気立てのいい奴だったらいいけど『アラジン』に出てくるランプの精とかだったら勘弁してほしい。むくつけきマッチョに「ご主人さま~」とか呼ばれたくない。


「あ、大丈夫。八百比丘尼っていう女の子だから」


「八百比丘尼ぃ……熊野とかに伝説のある?」


「うん、人魚の肉を食べて永遠の命を得たっていう半妖、まだ、ここに社があったころにね転がり込んできて、ずっと宝物殿の守りをしてくれていたの……数百年ぶりだから、ちょっと苦労してるっぽいなあ……よしよし、わたしが手伝ってあげるから、そんなに焦らないでぇ……あ、中村さん、いえ勇者乙は、そろそろ時間だから」


「で、どうやって行けば(^_^;)?」


「電車とリンクしてあるから、急いでぇ、乗り遅れたら蝋燭間に合わなくなってしまいますからねぇ!」


 ジジジ


「は、はい!」


 慌てて公園を飛び出した。




☆彡 主な登場人物 


中村 一郎      71歳の老教師

高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま

原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長

末吉 大輔       二代目学食のオヤジ

静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒


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