4区の住人
ドン!っと誰かがぶつかって走り去っていった。
いててて・・・・ 地面に転がった体を起こしながら擦りむいた肘をさする。
ぶつかってきた人が走り去っていく方を見たが角を曲がったのですぐ見えなくなった。
この町では犯罪なんてしょっちゅうあるので、さして珍しい事ではない。皆飢えていたり貧困にあえいでいるのだから。自分のように学校に通う者はこの区画にはいない。
一部が崩れ落ちたビルが立ち並ぶ区画を5分ほど歩くとやはり傾いた5階建てのビルがあり、その3階にある部屋のドアを叩く。
ギギギ・・・ と鉄製のドアが開いた。
「やぁ、テンいらっしゃい。」
と、部屋に招き入れてくれたのは、友人のレイク。この4区(通称捨てられた街)に住む友人だ。
「今学校の帰り?またこんなところ来ちゃって親に叱られるんじゃないの?」
と、笑いながら彼は薄いお茶を出してくれた。
「お前いつまでここにいる気?1区の住人のくせになんでわざわざこんなところに住み続けるのさ」
「親と一緒にいると息が詰まるし、だいたい親の職業で済む区画が違うなんてバカバカしくて。」
もう何度このやり取りをしたことだろう。
1区は政治家や学者、宇宙関連事業に携わる者、軍関係者とその家族のみが住む区画で許可がなければ一般市民の立ち入りができない区画となっている。2区と3区はそれ以外の普通の市民が住む区画。そして4区は建設計画があったものの中止となり、荒廃した建物ばかりの捨て置かれた区画。管理社会になじめない者や犯罪者などが逃げてくる雑多な街。
「そうだ、これ今日の講義内容の記録な。」
そういって腕のデバイスからレイクの腕のデバイスに転送する。こいつはここに住んではいるが、勉強熱心なので俺はいつもこの友人のために講義の内容を録画して持ってくることにしている。
「ありがとう。おっと、通信状態がよくないな。最近電波塔の劣化も激しくなってきたせいかも。」
「レイクのお袋さんからどうしてるかって聞かれて元気だとは伝えたけど、そろそろ1回帰った方がいいんじゃないのか?親父さんもまた再来月から月基地に行くって聞いたし。」
「そうだね。まぁ、母さんの顔を見に帰ってもいい頃だとは思うよ。じゃぁ、これから一緒に帰ろうか。1区まで。」
そうして二人で4区から一番近い2区を通り抜けて1区へ向かった。