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銃と剣と狩人と

 熱風。

 この地域では当たり前に吹き付けるその風でいつも起きる。


「暑いな……」


 そういいながらハンスはベッドから起き上がり、窓を開けた。

 陽光が差し込むと同時に見えるのは辺り一面の荒野。その中にある水場を中心に組まれた街。

 この周囲ではありふれた街だ。


 その街の宿屋に泊まること既に三日。賞金首は未だに現れない。

 噂は出ている。大物の賞金首がこの街を襲撃する、という噂だ。

 凄腕のガンマンであるビリーという男だ。

 別の街で一五人ほど殺害して逃亡したらしい。


 ハンスはそれを追っている賞金稼ぎだ。

 しかし、そんな噂は関係ないように、街には活気があふれている。


「ただの噂だったのか?」


 そう愚痴ってから、ハンスは着替える。

 ホルスターには、一応銃を忍ばせてある。油断すると死ぬのが賞金稼ぎだからだ。だから二丁、リボルバー式のものを入れてある。

 階段を降りると、宿屋の下は情報交換を行う酒場になっており、そこには何人かの賞金稼ぎがいた。見知った顔も何人かいる。

 しかしまぁ、朝から酒を片手に情報交換をするが、一向に大した情報もない。


「ハンスさん、ホントに来ると思うかい?」


 宿屋の女将が、酒とモーニングを一通り持ってきてから言った。


「俺も疑い始めたよ。もう三日だからな」

「流石に三日も経つと本当は来ないんじゃないかって思いたくもなるよ。こんな時あの噂の『狩人』とかいう賞金稼ぎがいたりすると心強いんだけどねぇ」


 狩人というのは、いつの間にか世間で言われるようになった噂だ。

 凄腕の賞金稼ぎ。何よりその賞金稼ぎ最大の特徴は、銃ではなく剣で戦う、という独特のスタイルにある。

 この銃だらけの世界で剣だけで数多の賞金首を屠ってきた。

 ゆえに付いたのが『狩人』、というわけだ。


「へぇ。狩人がいれば何日も泊まれるのかい?」

「まさか。狩人からだってあたしゃ金取るよ。人生そんなに甘くないってことを見せつけないといけないしね。それに何より、もう三日だよ」


 言うと女将はカウンターに下がってドラを叩いた。

 ドラの爆音が酒場に響き渡り、思わず、酒場にいる全員が耳をふさいだ。


「はい! 今日の宿代もらうよ! 宿代払えない奴はとっとと帰りな! うちの宿屋は慈善事業でやってるんじゃないんだからね!」


 そう言うと賞金稼ぎ達は一斉に財布を見る。

 賞金稼ぎと言っても所詮は根無し草のその日暮らしだ。

 こんな三日もすし詰めで宿屋に泊まっていれば当然のように金が尽きるやつが出てくる。財布を見てため息を吐くのがほとんどだ。


 かくいうハンスもその口である。

 泊まれて後一泊が関の山だ。


 突然、外から悲鳴が上がった。

 瞬間、賞金稼ぎたちの目の色が変わった。

 殺気を感じる。同時に感じるのは、強者の匂いだ。


 どうやら来たらしい。それも、白昼堂々。

 一斉に賞金稼ぎが椅子から立ち上がって、宿屋を出ていく。

 ハンスもまた、ゆっくりと立ち上がって、悲鳴のあった方向へと歩いた。


 歩いていると、悲鳴がそこかしこに聞こえた。

 街に先程まであった活気は全て消えて、悲鳴に変わっている。

 ハンスは屋根によじ登って賞金稼ぎが殺到している人を見た。その人のすぐ近くには、死体が数体転がっている。

 恐らく、その人物がビリーなのだろう。


 賞金額の書かれた紙を見る。人相書きにそっくりだった。

 賞金稼ぎの一人が、前に出た。


「ビリー、てめぇの賞金、俺様が」


 その言葉は、銃声とともに消えた。

 賞金稼ぎは、リボルバーを手に持ったまま、後ろに倒れた。

 見事に、頭を撃ち抜かれていた。

 しかし、ビリーは腕を組んだままだ。


 撃ったのは、ビリーの背中に取り付けられたクローアーム。そこには滅多にないオートマチックのハンドガンが握られている。

 恐らく何処かの遺跡から発掘したのだろう。

 ビリーはコートの中に手を入れ、オートマチックガンを両手に持ち、クローアームをも含めて三本の銃口から一斉に賞金稼ぎ達を撃った。そこかしこを撃たれて、賞金稼ぎ達が倒れていく。


 今回の案件は、どうやら自分の了見らしい。

 そう思って、ハンスは屋根から飛び降りた。


 ビリーが反応した。撃ってくる。

 弾は一発のみ。

 他愛もないことだ。

 すぐさま、飛んできた弾丸を、右手でつまんだ。


 そうしてから地上に降り立った。

 周囲はざわめきとうめき声が聞こえる。荒野も血に染まっていた。


「まだ賞金稼ぎがいたのか」

「まぁな。で、あんたがビリーで間違いないな?」

「そうだ。賞金稼ぎ、俺を倒せるか? 機械を手に入れた、この俺を。既に五〇は殺した。さぁどうする? どうする!? 決闘してやろう、抜け」


 はぁと、ハンスはため息を吐いた。


 どうも機械を手に入れたやつは調子に乗るクセがある。

 もっとも、この世界において機械を個人で持っているものは、それだけで畏怖の対象だ。

 だが、機械を持っているのは自分だけだと、勘違いしているやつも多いのは事実だ。


 だから、ハンスはホルスターから銃を抜いた。

 そして、その銃で、自分の右腕を撃ち抜いた。


 全員が、愕然としていた。ビリーに至ってはニヤついている。

 だが、それ以上に、ハンスは不敵に笑っていた。


『スターターからのエンジン始動要請を確認しました。アームドシステム起動。生体コードナンバーTIA-16542「ハンス・ボルガ」のものと一致。起動確認完了。アームドシステム、展開します』


 腕が、機械音声で唸った。

 ハンスが撃ち込んだ弾丸が、右腕に吸収されると同時に、右腕に稲妻が走った。


「な、なんだ!?」


 ビリーの唖然とした声が聞こえる。

 迸る稲妻と同時に、ハンスの右腕が変身していく。


 先程撃った銃弾は普通の銃弾ではない。

 このアームドシステムという、右腕を起動させるための膨大なエネルギーの入ったスターターユニットだ。そしてそれがある限り、ハンスは機械を操れる。


 ハンスの腕が粉雪のように分解され、今度は腕に機械が徐々に形成されていく。

 そしてハンスの右腕の肘から下は巨大な剣と化していた。


「剣、だと……! 笑わせんじゃねぇ!」


 ビリーが三丁の銃を一斉に打つ。

 ハンスは剣と化した腕をふるい、その銃弾全てを薙ぎ払った。


 甲高い金属音が鳴り響いて、真っ二つに割れた銃弾がハンスの足元に落ちていく。


 そして、ビリーからの銃撃が止まった。

 全員が、愕然としていた。


「おい、終わりか?」

「右腕の……機械剣……ま、まさか、お前は……!」

「そうだ、俺は」


 直後、地を這うようにハンスは疾駆する。

 そしてビリーの懐に入り込んだ直後、右腕で、心臓を一突きにした。

 その突きで、ビリーが後ろに背負っていた機械も、バラバラに砕け散った。


「お、お前が……か、狩人……」


 その言葉をビリーが言った直後、ハンスはビリーの体を切って、剣を抜いた。

 血しぶきが、地面を赤く染めた。


 周囲のざわめきをよそに、ハンスは自分の意識を集中させて、腕を元の人間のものに戻した。

 愕然としている全員を無視して、ハンスはそのまま、街を出た。


 そして、街から少し離れた荒野の崖に行くと、一人の男が待っていた。


「ご苦労だったな、ハンス」


 男の声は曇っている。

 そこら中にいそうな優男。そしてそれが、ハンスの腕を改造した、今の自分の上司だ。


「狩りは成功。雑魚すぎる」

「そう言うなよ。うちの実働部隊で動かせるのがお前しかいなかったから今回の案件になったんだ」

「知ってるよ。だからってあんな雑魚、渡さなくてもいいだろが」


 そう言うと同時に、ハンスは優男から差し出されたタバコを一本吸った。


「で、俺を見たっていう記憶は?」

「街の連中の記憶は『消しておいた』。狩人という謎の賞金稼ぎによって賞金首ビリーは死亡、というようにしてある」


 優男は相変わらずの曇った声で言った。

 この男もまた、機械を使う。この男の考える範囲の人間の記憶の改竄を行うための粒子を巻ける、というものだ。


 結果として、ハンスが訪れた街に知人はいない。自分が知っているだけで、あくまでも全員初対面にしかならない。

 何より、自分の正体は、明かしてはいけないのだ。


「助かるよ。こんな機械扱っている奴は目立って仕方がねぇからな」

「ああ、そうだ。分かっているな、ハンス」


 優男の言葉に、ハンスは頷く。


「俺は、いや、『俺たち』は狩人。この世に残る機械を抹消するために、機械を破壊するものだ」


 かつて、地球から遠く離れたこの星に降り立った人類。

 しかし、こんな星に来ても争いは絶えず、多くの機械が使われた。

 その機械を悪用されないように守り抜くために、機械の使用を辞さない組織。

 それが、ハンスの所属する組織である秘密結社。

 その名は、狩人。


 この狩人という組織が、この星を巡る大事件にまきこまれるのは、もう少し先のことになる。


(了)


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