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「そういえば、結局なんで試験を受けようとしてたんだ?」少年はリリアに尋ねた。

「行くときに話さなかったかしら。」少女は振り向きもせずにいう。

「そうだったか? すまん、あの時は飛ぶのに必死で。」

「そ。...書置きがあったのよ。そうしろって。」

「書置き?誰の?」

「兄さんのよ。」少女はそう答えた。

 少年はそういわれて今朝少女が目覚めたときのことを思い出した。

「あー、そういえば俺のこと見てお兄ちゃんとかどうとか言っていたような...。」それを聞いて少女は少年をにらみつけた。

「それは忘れなさい。あんたを兄さんと見間違えるなんて一生の不覚だわ。」

「...そうですか。」少年は溜息をつきながら言った。理不尽なことこの上ない。

「それで今その兄さんとやらはどこに?」

「いなくなったわ。」

「いつ?」

「3日前。」

「...意外と最近だな。...それで、書置きにはなんて書いてあったんだ。」

「『これからしばらく家から出ることにした。相談もなく出て行くことになってお前にはすまないと思っている。埋め合わせというわけではないが、いい知らせがある。3日後にあのダリス・フーリア校で試験が行われるらしい。お前はそれを受けに行け。お前ならきっと合格できる。俺のことは心配しなくていい。追伸。試験にはアルスが必要だったからそれをお前に送る。大事にしてくれ』って。」

「全部覚えているのか...」

「兄さんが私に送ってくれたものだもの。」さも当然といった感じである。

「...なるほど。」

少女は再びうつむいた。

「ごめんなさい、兄さん。

 私、約束守れなかった。」

「...確かに試験はだめだった。でもまだぜんぶ終わったわけじゃないだろ。」

「そうね...。ってちょっと待ちなさいよ。」

「ん?」

「そもそも、最初からアルスへの転移がうまくいっていたらこんなことにはなってないんだから...。っ...そもそも全部あんたが悪いんじゃない!!」

 飛んだとばっちりだった。

「おい、待て。おれは勝手に呼び出されただけだぞ。それをいうなら失敗したのはそっちだろう。」

「そんなわけないわ。私はちゃんと本に書いてある通りのことをしたもの。」

「じゃあその本が間違っているんだな。」

「兄さんが私に送ってくれた本を馬鹿にするつもり!?」論理がめちゃくちゃである。

 どうやらリリアの兄に対する愛情は相当なものならしい。とにかく、このままでは平行線だ。

「分かった。なら俺にもその本を見せてくれ。内容を確かめたい。」

「あんたに読めるの?」

「多分な。」

 街に出たときや学校に行ったとき、張り出してある紙の文字や看板が読めるのは確認していた。書いてある文字自体は見慣れなかったが意味は理解することができた。不思議な感覚だ。しかし読める分にはありがたい。実際にその本が読めるかは不明だが試してみる価値はあるだろう。

「そっちだって、本当に正しく読めているっていう確証はあるのか?」

「馬鹿にしないで頂戴。私だって字は読めるわ。兄さんが教えてくれたもの。」

「兄さんすごいな。」

「そうなのよ!」と、リリアは急に元気づいた。

「兄さんは何でもできるのよ。洗濯も料理もお掃除も完璧で。おまけに頭もよくて。...両親がいなかったから、兄さんが私の親代わりだったの。まだ小さいころから私を大切に育ててくれて、私には魔法の才能があるって読み書きも教えてくれたの。」

 完璧超人過ぎないか、兄さん。

「ってことは、もしかして家事も全部、兄さんがやってたのか...?」

「そうよ!」少女はうれしそうに言う。

 甘やかしすぎだろ、と少年はぼそっと言った。幸い、少女には聞こえなかったようだ。

「それで、その本はあるのか?」

「あるわよ。確かこの中に」と少女は鞄をあさり始めた。そして一冊のぼろぼろの本を取り出した。

「大事に扱いなさいよ。」

「...ずいぶんと古い本だな。」

「なに、兄さんの買った本に文句があるの?」

「いや、そうはいってないだろう...。」

 あまり兄さんのことには触れないほうがよさそうだ。面倒なことになる。

 少年は表紙を見ると「魔術大全」と書かれていた。適当なページを開いてみる。古めかしい言い回しではあるが、どうやら文字は読めそうだ。しかしところどころかすれていてうまく読めないところがある。本自体もかなり年季が入っている。下手に扱うと壊れそうだ。

 これを壊したらリリアに何と言われるか...。早めに用をすましたほうがよいだろう。

「その、元々やろうとしていた魔法はどこに載っているんだ。」

「貸しなさい。」リリアは手慣れた様子でページを探す。そしてすぐにお目当てのページを見つけたようだ。

「ここよ。」といって本を開き少年に見せた。

少年は渡された個所を読む。そこのタイトルには「魂の転移」と書いてあった。

「...あれ、元々やろうとしていた魔法ってなんでしたっけ...?」

「魂の憑依よ。何度も聞かないでよ。というかなんで急にかしこまったのよ。」

少年は嫌な予感がしてページを一ページ戻った。そのタイトルを見て、少年は顔に手をやる。

「なに、どうしたのよ。」


「お前...使う呪文のページ間違えてるぞ...。」


少女は、は?という顔をして本を少年から奪いそのページを見た。そして一度ページをめくり、そしてもう一度前のページを見る。その本には「魂の憑依」と「魂の転移」という魔法が、並んだページに書いてあったのだった。


しばらく沈黙ののち少女は言った。


「まぁこういうこともあるわよね。」

「おい。」


どうやら、自分は勘違いで呼びだされてしまったらしい。


少年はこれまでのことを思い出し、頭を抱えた。

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