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「なんであんなこと言ったの。」


「えっ?」と少年は振り向く。

 少女-リリアと名乗っていた少女は杖を抱えて立っていた。いつもの強情な感じが薄れ、今はなんだか頼りなさげに見える。

「あんなことって...?」

「教師に頼んだときよ。チャンスをくれって。」

「あぁ、あの時。」少年は思い出した。今思い返してみるとなんだかすこし気恥ずかしい。

「...ま、結局、意味なかったけどな。」少年は明るく言った。


 結局のところ、試験を受けることはできなかった。少年が魔法を打たれても無事であることは確かに皆を驚かせたようだった。しかし、教師はもう答えを決めていたようだ。チャンスは一度よ、そういって取り合わなかった。そして教室を追い出された。もちろん教室での試験が終わるまで待機させられ、その後しっかり掃除もさせられた。意外とあのモースとかいう教師は性格が悪い。少年はそう思った。

 リリアはその後もまだなんとか試験を受けようと駄々をこねていたが、その抵抗もむなしく結局二人は学園の外に追い出された。そうして二人は特にするべきこともなく、帰路につくことにしたのだった。


 少年は再び少女の方を見る。少女は何も言わない。言葉の続きを待っているようだった。

「...別になんか大した理由があったわけじゃない。ただ、そうだな。言われっぱなしなのは可哀そうかと思って。」少年は少し露悪的に言った。

「なによそれ。」少女は言った。

 本当のところ、少年は少女のことを少し尊敬していた。リリアは周りに決して流されなかった。常に自分の主張をしていた。たとえそれがうまくいかなそうでも、自分の主張を捻じ曲げることはなかった。自分にはないその部分を少年は少しだけ、うらやましいと思ったのだった。

「まぁ、今回だけってことはないんだろ?今回はダメだったけどまた次が-」

「次はないわ。...今回じゃなきゃ、ダメだったのよ。」

少女は暗い調子でいう。そこには諦めた人間の空気が漂っていた。もはや可能性を見出すことを諦めた人間の空気だった。しばらくして少年は言った。

「らしくないな。」

「...はぁ?」

「あきらめるのかよ。さんざんっぱら、あんだけ人をこき使っておいて。おかげでほんとにひどい目にあった。いきなり違う世界に呼ばれたと思ったら電撃打たれて叫ばれて、崖に落とされて...。」本当にひどい目にあってるな...と少年は思った。

「そのまま空を飛んで窓ガラス割って怪我して怒られて掃除させられて。まぁ、いろいろあったけど、でもなんというか」少年は一度言葉を切った。

「楽しかったんだ、俺は。」相変わらず少女は目を伏せている。

「お前、天才、なんだろ。きっと、また凡人の俺には思いもつかないことをして先に進めるさ。だからさ、まぁ、諦めなくてもいいんじゃないか。」少年は少女を励ました。なんだか途中から何を言ってるのかわからなくなってきたがまぁよしとする。

「俺も、力になるからさ。」少年はそう付け加えた。

 しばらくして、少女は溜息をついた。変な奴、そう聞こえた気がした。


「...そういえば、あんた、名前は?」少女、リリアは言った。

「...ないよ。そっちが好きに呼んでくれればいい。」少年は答えた。

「なにそれ、それでいいの?」

「あんたは俺のマスター、なんだろ?」

「?なによ、マスターって」少女は聞きなれない言葉を聞いてポカンとしている。

「あー、あんまり気にしなくていい。仕える相手的な事だと思ってくれ。」

「あっそ。じゃあ名前は、考えとく。」いっとくけど、と少女は続ける。

「これからもこき使うから、覚悟しときなさい。」

 リリアは少しだけ、笑った。どうやらいつもの調子に戻ったようだ。少年も笑った。

 二人はこれから待ち受けるであろう未来に向けて、一歩を踏み出した。



 -その少し後。


 ダリス・フーリア校、ある一室。

 モース・グリットルは本日の試験の結果を報告していた。

「-以上で今日の試験については無事に終了しました。」

「そうか。なれない職務、ご苦労だったね。」声だけが部屋に返ってきた。この部屋にはモース以外の人影は見えない。

「ところで、このリリアという人物はどうしたのかな?除外ということになっているが。」

「...その志望者は不適格な行為をしましたので試験から除外しました。」

「不適格な行為というのは?」

モースは試験で起きたことをかいつまんで伝えた。

「つまり、遅刻に器物損害、それに規約違反ということで除外するのが適当かと。」モースが説明を終える。しかし声の主の興味は別のところにあるようだった。

「なるほど、まるで人間のように動く、いや人間として意志を持ったアルス、か。」

「...。」モースは黙っていた。こういう時は余計なことを言わないのに限る。

「モース君。」声が告げる。

「はい。」

「君に新しい仕事を与えよう。」

「...はい。」

しかし黙っていても結果は同じだったようだ。モースは心の中であの二人に悪態をついた。

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