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 少年と少女は、アイネ村を離れて次の目的地へと向かっていた。

 

 キャラバンを離れる際に団長からもらった地図を眺める。そこにはこのあたりの簡単な地形が記されており、次の目的地である町に印がついている。

 少年は、再び学園からの追手が来るかもしれないということで、一度できるだけ学園から距離を置いた町で腰を落ち着けたいと団長に相談していた。

「あと、料理がおいしいところがいいわ。」

 リリアが余計なことを言う。

「なるほど。」

 団長は苦笑いしながら考えた。

「それなら、ここがいいんじゃないかな。」

 そういって団長はある町を指差した。

 そこには「カイル村」、と記されている。

 なんでも、海に面した港町で、貿易と漁業で栄えている町だと団長は言っていた。確かにそれなら料理も期待できるだろう。少年も魚介類を食べるのは久しぶりだった。

「海!」

 突然リリアが声をあげた。

「どうしたの?」

「海って一度見てみたかったの。そこにしましょう!」

 そういって彼女も同意した。


 そんなわけで彼らはカイル村へと向かった。

 しばらく歩いていると少女が言った。

「疲れたわ。飛んでいきましょう。」

「...なぁ、前も言おうと思ったんだが。俺が飛べるんだったらリリアも飛べるんじゃないのか?毎回俺が飛ばなくたって」

「いやよ。」

 彼女はにべもなく断った。

「なんで重いあなたを背負って私が飛ばなきゃいけないのよ。私のほうが軽いんだからあなたが飛んで私が乗ったほうがいいでしょう。」

 少年はそう言われて反論ができずに黙った。それに、彼女にぶら下がっている状態を想像すると、なんだか恰好がつかないような気がした。

「...それなら道案内は任せるよ。」

そういって少年は地図を少女に渡し、手を差し伸べた。

しかし、少女は手をつかもうとはしなかった。

「?」

 少年が首を傾げていると、少女は言った。

「ぶら下がるのは疲れるから、今回はあんたの背中に乗るわ。」

「あー、確かに。それもそうだな。」と、リードは言ったが、少し困った。

「でもどうやって背中に乗せればいいんだ?」

「何言っての。そんなの簡単でしょ。」

 そういうと少女は地面に指をさした。

「ここにうつ伏せになって。私が乗るから、そしたらそのまま飛べばいいのよ。」

 ここ、ちょうど崖になってるし、彼女は前方を指差して付け加えた。

「...なんだか嫌な絵面だな...。」

 少年は顔をしかめた。

 それに、それって。少年は冷静に考える。

 俺の上にリリアが乗るってことか。それって、なんというか-。

 ちょっとあれだな。うん。

「なに考えてるの。顔が気持ち悪くなってるわよ。」

「いや、なんでもないです。」

 なぜか少年は敬語だった。

 決してやましいことを考えていたわけではない。決して。

 少年は心の中でそうつぶやいた。

「じゃあ決まりね。」

「...分かったよ。」

 そういって少年は崖の前にうつ伏せになる。

 眼下には森が広がっていた。そして見上げれば青い空、白い雲。絶好の飛行日和である。

 少年は手をまっすぐ水平に伸ばした。まるで子供のころに見たヒーローのように...。

 傍から見たらちょっと、いや、かなり馬鹿っぽいかもしれない。少年は冷静になり手をひっこめた。

「じゃあ乗るわよ。」

 そういって彼女は少年の上に勢いよく腰をおろした。

「うげ!」

 どすっという音と蛙がつぶれたような声が辺りに響く。

「あ、ごめん。」

「...もうちょっと、配慮を、だな...まぁいいや。」

 少年は諦めた。ないものねだりをしてもしょうがない。というか、ちょっと重く-。

「なんか言ったかしら。」

「いえ、なにも。」

 心の声が聞こえたのだろうか。恐ろしい。

「じゃあ出発しましょう。」

 そういって彼女は位置を調整した。

 服の上から彼女の重みと肌のぬくもりが伝わってくる。そして感触も-。

 少年は妙な気分になった。

 あまり深く考えるのはやめたほうがよさそうだ。さっさと飛ぼう。

 少年はそう決心し、足に魔力を集中させた。

「落ちるなよ。」

 そうして少年は少女を背中に乗せて崖から発進した。


「おおー!いい風。」

 少女は少年の背中ではしゃいでるようだった。彼女は少年の背中に胡坐をかいて座っているような状態で座っている。

 少年は子供のころにアニメで見た、空飛ぶ絨毯の上に乗って飛んでいる場面を思い出した。

 ...まさか、自分が絨毯側になるとは夢にも思わなかったが。

「もっと早く飛びましょう!」

 少女の楽しそうな声が聞こえる。まぁ、彼女が楽しそうならいいか。少年はそう思うことにした。


「見えてきた!」

 しばらくすると少女の声が聞こえた。少年も目を凝らす。すると向こうの方に、一面の海が見えた。ほのかに風の匂いに潮の香りが混じっている。

 青い海が一面に広がり、水面は日に照らされて周りに輝きを振りまいていた。

 少年にとっても久方ぶりの海だった。最後に海に行ったのは、一体いつだっただろうか。

「いい景色ね。」

 少女が言う。

「そうだな。...おじさんにも、見せてやりたかったな。」

 少年はふとそんなことを言った。

「...そうね。」

「...あ、ごめん。なんか変なこと言ったかも。」

「別に変じゃないでしょ。」

 少女はそう少年に返した。

 海の近くに町が見える。

 二人はそこへと向かう。


 そうして、町に着くまでの間、二人は静かに海を眺めていた。

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