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「だって善生君はあそこの映画館しか行かないでしょ? 私一緒に映画観た後の善生君の感想、面白いし楽しいよ」
私の自己嫌悪が余計に激しくなるほど美しい、まるで小鳥の囀りか小川の潺のような声。
私がことあるごとに、思わず彼女から目を逸らしてしまうのは、都琉のこういう、天然な、悪意などというものから甚はだ隔たれた、陸離たる目眩を恐れたからではないか?
例えるなら私の脚を引き摺り込み、著しい勢いで永遠の昏睡へと導く渦潮の潮流のような、そしてその裡側から昏睡した私という自我を洗い流して、全くの別人にすら変えてしまいかねないような概念そのものが、きっと都琉である。
「そりゃ困った話だな。僕の辛口レビューが? あんなぶつくさ言ってるのを聞いてたって、嫌になるでしょ」
「はは。それが意外とそうでもない。善生くんのは単なる辛口じゃないもん。ちゃんと映画を深いところまで観ててさ、愛あるがゆえの厳しい感想っていうか? 映画を作る側からしたら寧ろ嬉しいくらいじゃないかな」