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勿論かの信心深い我が両親にしてみれば、いくら命が救われても、その命の次か、同じくらいこの世になければならないものが、皮肉にも自分達が総代の誉ある年に、永遠に姿を隠してしまったに違いなかった。にも関わらず誰からもその責を追及されない実に冷ややかな温情は、二人にはこれ以上なく耐え難い優しい仕打ちだったに違いない。
以後、私の両親は、まるでその身から何かがごっそりと抜け落ちてしまったかのように、すっかり何事にも気力を喪失してしまった。やがて仏に対する信仰心も、もはやなんらかの呵責の言い訳でしか無くなってしまったことに気付くと、二人は急速に仏への帰依を見失っていってしまった。
ただその一方で、この事件を計り知れない喜びで受け入れた者もいた。それは私だ。私はこの、見事なまでに灰燼と帰した廃墟に、胸の破裂しそうな高鳴りを隠せなかった。