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あの夜の混乱を、私自身あまりはっきり覚えてはいない。
混乱――まるでそれは、空を埋め尽くさんばかりの夥しい死の天使たちが、賑やかな宵を欺いて運べる限りの爆弾を抱えて空襲してきたかのように、平和な祭りの夜の楽観を、灼熱の大波によってことごとく虚無の彼方に飲み込むようだった。そして天使たちの使命は、見事に完遂された。彼らは不壊の炎をもって、あの赤く邪な炎を制することに成功したのだ。
日が明けてから行われた警察の検分結果から、どうやらあの篝火が事件の真犯人であり、火柱からこっそり舞い出た火の粉が、寺の本殿の藁葺き屋根に燻りやがて火をつけたのだと、数日後、ごみ箱の中にくしゃくしゃに投げ込まれていた地方新聞の一面で見た私は、その不幸をひたすらほくそ笑んだ。
私の一族の菩提寺は、あの一夜にして、全て跡形もなく消失してしまった。幸い人が死ぬことはなかった。どうやらここにいた神らしきものは、最後まで、人に残酷を強いる神らしくなく、寧ろ人らしく人を愛し、祝福していたのかもしれない。ただし大きな自己犠牲を払って。