表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁域  作者: 禅海
第一章
64/204

64

 月光をためた日本海の海原のような白銀の雪景色の遥かな間隙(かんげき)に、眩しい漁火(いさりび)のような赤い炎の先が見えて、そこから雪雲たなびく夜空に相見(あいまみ)えようとばかりに、白い狼煙が龍神のように昇ってゆくのが見える。

 あの狼煙が、行き先の菩提寺の篝火(かがりび)の目印である。遠くからでもそれがはっきり分かる。田舎街の夜である。

 年末になると毎年必ず決まった場所で焚かれる篝火には、約千年の祭祀的歴史がある。来年の福を願い、今年の厄を祓うための神聖な拝火の伝統である。その聖なる炎で雪洞(ぼんぼり)を灯した街の人たちは、請けまわりの町内会の催しの焼き鳥と甘酒を手に、定番のウィンターソングを歌いながら、盛大な無礼講の夜を明かすのだが、しかし私は、いかにも屈託のない子どもらしく、その愉楽の後夜祭の輪の中へ混ざり込もうなどという気など、微塵も覚えたことがない。

 私はこの時にはもうすでに、雑沓に安心を見出すことが出来る人種ではなかった。そういうときの、他人の幸福な顔に自分の幸福を見出すことができる人種ではなかったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ