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私が「どうしたのお爺ちゃん」と呼びかけると、祖父は慌ててこちらを振り返って、吃驚した顔で私を見て、そして言葉数少なげに、老人に特徴的な気恥ずかしさを含んだ狷介な顔をしてこう尋ねた。
「なんや、熱はもう下りたんか」
終戦後に中卒で作業機械のように集団就職に駆り出された彼がすぐに思いつくのは、いつもこういう、機械的で味気のない、一切の感情の付随も感じられない、色褪せた言葉である。「大丈夫か」というたった四文字の気配りすら彼には欠けていて、私が見てきた限り年をとればとるほど、彼は寧ろその非人間味からして高性能な機械に近づいていくように思われた。それこそ科学者が熱望する自動人形のように。
「うん。熱は下がった。今は元気」
「そうなんか? ほんとに?」
「うん」
「ほぉか。ほぉか。なら印盛寺さんとこ、いこか」
「うん」