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禁域  作者: 禅海
第一章
59/204

59

 それから私は……起きがけに下腹部にむず痒い尿意を覚えて、数時間ぶりに立ち上がった。

 無重力状態の宇宙空間から地球上へ生還を果たした宇宙飛行士の如く私はふらついたが、しかしあの焼け爛れるような熱病の気怠さはすっかり消えていた。そして朝方からずっと恐ろしい熱にうなされていたようには思えない、見ちがえて軽やかな足取りでトイレへ向かい、私は洋式便座に尻を押し付けるように落ち着けた。

 そしてむずむずと、あの女神に似た何者かの身体を思い出しながら……私はまた激しい摩擦による健康な熱病に侵された。

 この熱病は誰かに教わるわけでもなく、その実に民間療法的な方法で、一瞬の苦悶と結合した比類ない快楽ののち直ちに治まった。今降ったばかりの雪のように、真白に(ほとばし)った熱病の原因たる醜い(うみ)が、便器のセラミックの表面に四散し、水溜まりの方へ、恩着せがましい粘性が伝ってゆく。

 初めてそれを目にした私の戸惑いや驚きと共に、白濁した膿は仄暗い下水の底へ、激しい渦潮に巻き込まれながら無益に押し流された。……


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