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居間の掛け時計の正午を告げる甲高いアラームが、昏睡してゆく脳裡を覿面に刺し貫くと、いよいよ私の意識は、何らかの正常さを欠いて、肉体から離脱したように、ふらふらと、何やら夢のような、幻覚のような、不可解な描像の世界に飲み込まれた。
墜落の灼熱に焼かれながら私が迷い込んだこの世界は、甚だ奇妙な領界である。そこは見渡す限り果てのない真っ暗闇に包まれていて、上下左右もよく分からず、ただし無よりも仄かに明るく、夜よりもずっと黒い。そして闇の中に光は無いから、そこにあるものなど目に見えるはずがないのに、不思議なことにそこにある様々なものが、各々自発的に光を放っているために、その形態が非常にはっきりよく分かる。また私自身も裸体であり、その肌は白く濁って光っている。