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枯れた桐の大樹は、僕の痩せた身体を支えるには、大きすぎるほどだった。枯れ樹は、ぼくの濡れ切った肉体と、それ自体が発する冷たい熱とを湛えた。枯れ樹はぼく自身でもあった。
生木が香らす濃い樹液の匂いより、大地に膝をつき・眠り耽る少女のようにくびれた丸い幹の冷たさが、それが伝えるぼく自身の奇妙な冷たさが、ぼくのしがらみと疚しさを揣摩し、醜く地を這う青虫が蛹となってやがて美しい翅を携えた蝶となって空へ向かってはばたくように、ぼくを初めてぼくにするのだった。
ぼくは幼稚園児や保育園児が、砂糖の山に群がる蟻のように砂場の砂山を愛するよりも、ずっとこの死んだ枯れ樹と、曇り空と降り注ぐ雨を愛し、雨雲を割って注ぐ陽光と地平を跨ぐ七色の橋よりも、仄暗がりに沈む無言と静謐を好んだ。……
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