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大抵の場合、異常者は正常者のふりをするのに長けていると言っても過言ではない。
ふりをするというよりも、例えば社会人が好きでもない上司におべっかを言って気に入られたり、殺してやりたいと思うほど理不尽な仕打ちを受けても本心を噛み殺して笑ったり、そういう、生きるために必要なことをせねばならないのと同様に、異常者ほど正常を心がけるのは、ある自然な流れの一形式に過ぎないように思える。
だとすれば私が心身ともに成育するにつれて、そういう技術を身に付けていくのも当然で、例えばテレビに出ている流行りの新人女優やニューモデルを見て、家族や友人が「綺麗だね」とか、「かわいいね」とか言うのについて、必ず私は小気味の良い笑みを浮かべて、そうだね、羨ましいね、などと上手に話を合わせる。