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それどころか、少なくともこの私にとっては普通な性的感覚は、あの大震災のときに私の母の姉、私の伯母にあたる人物が出張先の仙台の沖合へ流されて帰らぬ人となったことを皮切りに、死者は悲しみを以って篤く弔われるべきであるという世の中では、少なくともそれ自体異常感覚であるという認識をちゃんと充備してもいる。また言うまでもなく両親の狂気じみた信仰心が大震災の激震によって更なる深化を遂げたことも受け入れた。
私がそのように倒錯者としては十分常識を備えている不幸は、私を様々な場面、状況、環境の中でやはり孤独に放置しないことを赦さなかった。つまりそれは、ほかならぬ外界との足並み揃えた接触からはやはり避難できないという尤もな人間理論の帰結である。