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剥き出しの土の上に、押し花のように仰向けに倒れた、生々しい裸の美女の屍体は、長い手脚をだらんと放って、力無く半目を閉ざして善生の方へ、海岸に突き出た断崖のように切り立った鼻先と、アルカイクな微笑を孕んだ薄紫色の唇を向けている。それは確実に死んでいるか、もしくは眠っている母のようでもある。
石膏で塗り固められたかのような、もはや動きもせず濡れもせず渇きもしない細い瞳に見つめられて、私は全身に妙な興奮を覚えると、好奇心で美女の身体を触ろうと手を伸ばす。指先が白い素肌にちょんと触れると、なんとも悍ましいことに、美女の肉体は触れたさきから水面に落ちた雫の輪が広がるように汚く腐ってしまう。
私は驚いて、まずいと咄嗟に手を引く。すると美女の屍体の腐敗は止まって、たちまち腐敗はその経過が逆流するように元通りに復元されてゆき、そこに時間や空間から隔離された瞬く固形の美を保存した。