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また、ごとんと、何かが床に崩れる音がした。何かの拍子に箪笥か机か棚か何かの上から畳の上へ転がり落ちた古い巻物が、宮殿絨毯のように、縦長の色褪せた夜の荒野を靡かせている。
そこに描かれているのは、くすんだ土塊に投げ棄てられた美女の屍体が、時間をかけて、野鳥や野犬に啄まれて、腹に充満したメタンガスが弾け、腐りやすいところから順に腐敗してゆき、残るところは骨だけになり、苔むしてゆく、九相の死の図画だった――かつて仏門に入った男の僧侶たちは、このような生前に美女と謳われた者の死後の図画を観ることで、己の色欲を減退させ、自制に努めたと言われているが、果たして全ての僧侶が粗末な屍体の変貌図を見て、あまつさえ本物の屍体が腐りゆくのを想像して、全く自然に制欲できたのだとしたら、私ほどこれを疑う者は他にはいないだろう。逆に幼き日の私のように、そこに新たな性への輝きと固執を見出した者がいたとしたら?