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この浅ましい光景を、私だけが直に目撃していた。不思議なことに、喜子は何事もなく眠っている。室内の翳りに毒ガスのように太陽光が侵食してきた。淡い光に透かし出されてゆく、粉々に割れた磨り硝子の煌めき、家具や装飾の計算されたような乱れ、壁や襖に迸り燃えるような赤い鮮血。
知らぬ間に私を包んでいる灰と白の散らばった羽毛の、あの朽葉や木屑や虫卵が複雑に混じり合った腐葉土のような、一種の安心さえ促す野性の匂いが、あたかも最初からそうであったように、自然に、広間の空気と調和しているようにすら思われた。