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そして死に物狂いな羽ばたきを、壊れそうなほどわめき散らしながら、一羽のキジバトが部屋の中へ飛び込んできた。
私は一瞬心臓が止まったかと思うほど驚いて、勢いよく尻餅をついた。何が起きたのか要領を得ない間にも、キジバトは恐ろしく狂った様子で羽毛を撒き散らしながら、ただの一鳴きもせず一心不乱に部屋中を飛び回った。
古い和箪笥の抽斗が崩れ出、壁際に掲げられた額縁が床に倒れ落ちた。キジバトの黒々とした瞳の中で、餌を追っているときよりも、捕食者から懸命に逃げているときよりも、確かな生への渇望と、死への恐怖がせめぎ合っている。確かな恐怖に打ちのめされていながら、しかし同時にそれが私にはサーカスや路上パフォーマンスのように呆気にとられるほど華やかに見えたのはどうしてだったか?
死の迷宮に迷い込み、行き場を失くしたキジバトは、それでも自由を求め過激な抵抗運動を繰り広げたが、やがて、襖の一羽の鶴めがけて真直ぐ吶喊し、それから、暫く畳の上でぴくぴくと苦しそうに折れ曲がった首をもがかせた後、力尽きて遂に動かなくなった。