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長い遍路の続く先は、京都市のとある由緒正しい浄土宗系単立の寺院である。目的地に近づいてゆくにつれ、時空を超克したような威風が迫ってくるのが感じられた。
駐車場で車から降り、秋の森の涼しげな匂いが爽やかに満ちてくると、この犯されようのない純潔な聖域は、何か特別な晴れの日の装いにも似て、辺りを埋め尽くす紅葉模様は大変煌びやかである。ここは、きっと秋の名刹なのだろう。
両脇に控える剪定された生垣、客人や檀家を迎える小径の先に見えてくる、緩やかな傾斜に敷かれた石階段は、その端々に落ち葉の紅や橙を壁画のように留めていた。それは、まるで神聖な供犠として捧げられた獣が、鋭い刃先によって脇腹から流したばかりの憐れな鮮血のように、湿って、温かく、華々しい。
微かに唱和念仏が聴こえてくる。
「ねえ綺麗ね。紅葉狩りに来たわけでもないけど」
「ほんとやな。俺、こんな綺麗なのは初めて見たかもしれん。何が美しいってこのトンネルのような紅葉の広がりが……」