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禁域  作者: 禅海
第三章
204/204

204

 私は気の赴くままに暗黒の階段を昇っていた。二階までの途中の踊り場に、割れた注射器が転がっている。それを蹴飛ばして昇るとすぐ広いフロアに出る。古い医療器具、白衣やゴム手袋の詰め込まれた段ボール箱、医療用ベッドの大きなマットレス……そのような数々の物品がそこらへんに埃をかぶったまま放置されている。ああやはりここはかつて病院であり、言葉巧みに儚げな希望を病床者たちに信じ込ませ、しかし最期には手を尽くして幸せな死を提供してきた場所に違いない。まさに死が染み付いている。どこにも逃げることのできない運命された死が。そこらかしこに。

 屋上への出口扉に鍵はかかっていない。私が肘で小突くと、扉は音を立てずにゆっくり開いた。すると急に冷たい夜風が顔に吹き付けて、遂に私に旅の終焉を宣告する。頭上には輝かしい三日月と星団の海が視界の遥か彼方まで広がり、周囲で孤山の高木の梢の枯葉が一斉に揺れて、風の子守唄を奏でている。

 なんだか良い気分でフェンスを跨ぐと、私は屋上の(へり)につま先を揃えて目を瞑った。そして天へと続くガラスの階段を昇るように踏み出された右脚は、しかし一瞬の浮遊感をもたらすだけ踏み外された。

 身体は反転して宙吊りに、激しく錐揉(きりも)みして、何もかもぐちゃぐちゃに掻き乱しながら、程なくして私は割れるように大きな音を立てて死とぶつかった。……


 一つ、二つ、三つと、死に包まれた闇を伝線するように、今さら山際の旧道に仄暗な街灯が(とも)り出す。悲しいことに、こんな絶望の終着地にすら、人間の叡智の光は煌々と注いで来る。


第四章以降は現在執筆中です。それまで暫く連載は休止となります。

こんな無名アマチュア小説書きの観念小説をここまで辛抱強く読んでくださった皆様方に心の底から感謝を。

そしてまたご縁がございましたら。

……などと言いつつも、心の片隅でこの物語はここで終わっても良いのかもしれないと思っています。

これ以上先を書く必要ももはや無いような気もするので。

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