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すくすくと伸び盛った雑草や、荒々しい撤去作業の痕跡で無秩序な有様の大玄関を目の当たりにしつつ、私はそのそばに置き去りにされたかのように転がっていた、フットボールほどの大きさの重々しい色をしたセメントか何かの塊を見つけると、私はそれをなまじ備わった筋肉でどうにか持ち上げて、大きな開閉式自動ドアめがけて、思い切り投げつけた。間もなく不可逆な快音と供にガラスが砕けて破片が無造作に散らばった。警報機はとっくに死んでいた。
割れた隙間から私は中へ入った。すると足元にはくすんだエナメル色の廊下が延びていて、そのすぐ右手には三、四ばかりの窓口らしき構造が並び、頭上には受付という刻印が薄っすら残ったプレートが一枚だけ、天井からぶら下がる鎖紐にしぶとくしがみついている。
窓口前から廊下のさらに奥にかけて見ると、所々長椅子が床に固定されていた跡が残ったままであり、分厚い扉が複数、壁に等間隔で一様な横隊を組んでいる。それらの痕跡から判断するに、ここはかつて病院だったことを、私は何となく了解した。