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アパートから彷徨い彷徨い、ただ光の一点も無い方へ、一時間ほどかけて私が辿り着いたのは、市街から南に大きく離れた低山を枕にした廃屋である。廃屋は三階建の一棟で、その敷地は2メートルほどの高さの金網に周囲をぐるりと囲まれており、金網の外はねぐらの野鳥の囀りや野獣の遠吠え、虫の鳴き声がするかと思えば、しかし金網をよじ登った先舗装された敷地は寝静まったように不自然に静かだった。
しかし今から死のうという時に、私はまるで小さな子どもが夢の中で冒険の旅に出るような気分だった。いやしかし寧ろ考えてみると、冒険のあの不思議な高揚感とは、ほかならぬ死、もしくは破滅への接近であるかもしれない。そうすると私は今、目的が完全な冒険の最中に違いなかった。私のこの冒険の報酬は、ほかならぬ非業の死なのである。