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破り棄てられた遺書
僕はこれから死のうと思います。
元々、僕はこれまで自分が長生きするだろうとは、微塵も思ったことがありません。僕はできることなら、どんなに長くとも三十歳までには死んでいようと思って、そのためだけにこれまで必死に生きてきました。何故なら、僕はそれ以上先の僕の未来を想像することが出来ないためです。
僕は昔から、想像の及ばないものが何よりも恐ろしいのです。人間が時折見せる、善意のない天使のような笑顔、そして悪意のない悪魔のような嘲笑のようなものが、僕にはそれこそ死ぬことなどよりもずっと恐ろしく思えます。
それでも僕は二十歳を迎えるまでには死んでいるだろうという、理由もない予感にいつも苛まれてきました。子どもの頃からそういう妄想じみた予感に、目の覚めているうちは常に悩み続け、そして時には夢の中にさえ現れる幻影にまでうなされながら、しかしこれまで毎日を、その日その日を凌ぐように、やるべきことだけをやって、実際にはただ一つの差し迫った危険の予感もなく、実に平和そのものなこの世の中で、正しく漫然と生きてきたのです。