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「外の張り紙はまだご存じないんですか? ここ、今月いっぱいで閉館するんです。もう随分長いこと赤字だったんですよ」
映画館を出るころは、霰は落ち着き、待ち合わせの時刻に丁度間に合うくらいだった。出口で傘を閉じて大通りに出る。市電の二両編成の路面電車が流れていくのを見送って、大通りを跨ぐ長い横断歩道を渡り、道なりに進んで、阿諏訪川に掛かる神船大橋を渡る。いつも都琉と歩いた道。そういえばあの日は喜子と歩いた道。しかし今ではそれも遥か昔の出来事のようにも思える。
大橋を渡りきるとすぐ市街中央に入り、雑居ビルに商店街に立体駐車場に百貨店が近づく。そしてその少し手前にカフェはある。カフェの大きな窓が近づく。そこに都琉が居る。一杯のホットコーヒーを注文して私を待ちながら。
「久しぶり……っていうほどでもないか」
私から先に話した。あのキスのことなどもうなんとも思っていないとでも言うような、一つの牽制のようなものである。
「はは、わたしもちょっとそんな気がしてた」