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無力感の次に私の裡に現れたのは、激しい烈火のごとき怒りである。どこにも、誰にも晴らすことのできない憎しみすらかなわない怒り。ただただ純粋な怒り。私は我慢できずに、喜子の位牌を掴んで、仏壇に投げつけた。線香鉢が灰をぶちまけながら畳に転がる。電気式の擬蝋燭のコンセントが抜けて灯が消える。
真戸一族を弔う仏壇は滅茶苦茶になった。ただこの中でなによりも散々な姿をしているのは、私の幼年時代の仏、宗教に対する憎しみと憤り、そして喜子に下らない戒名などを与えた両親と親族への呪詛に違いなかった。
それから私は、昂り切った気分が落ち着く間もなく、骨壺を掴んで蓋を開けた。喜子の骨が、その粉になったものが、臭いのただ一つも燻らせずに納められている。
私は骨壺に手を突っ込んで、握りこぶしで掴めるだけ骨粉を掴んだ。
目を見開いて骨粉を頬張ると、その細かな砂利が歯茎や口腔壁を傷つけ出血させたが、それでも粗目のガラスのような結晶を必死に嚙み砕いて飲み込み続ける。いわばこれは贖罪だった。無限にも思われるほど長い間、私はその血生臭さに悶え苦しみ続ける必要があった。
私はもう元には戻れない。ああもう今さら仏だとか家族だとかそんなものはもうどうだっていい。これはきっと私が片時でも誰かを愛したための罪だ。ならば私はもう二度と誰も愛してはならない。