193/204
193
火葬場の火が落ちた。煙突の先端から喜子の魂が消え去ってゆく。
親族だけが喜子の残骸を漁ることを許された。たったこの一年の間に海老のように背骨が曲がった祖父と久しぶりに向き合い、私は長い箸を渡していく。これほど重いものを、私は今まで一度も箸で掴んだことは無い。
私以外の家族が寝静まった仏間に、喜子の遺骨を納めた骨壺が置かれていた。あれだけすくすくと伸びた健康な背丈が、今では私の手に乗るほどの大きさしかない。
虚脱感に裏打ちされた無力だった。私に限って滅入るなどというものとは無関係だとばかり思っていた。常に神経質に感覚を鋭く緊張させて、それ以外の余裕などどこにもなくて、それはたとえ両親が死ぬ時だって変わらないはず……それでもやはり私の不幸は着々と積み立てられていたのだった。