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ただ唯一の友軍を失ったような気分だった。これで遂に私は、もはや家族のいない孤児といっても過言ではなかった。子どものころからの唯一の仲の良い遊び相手を、ただ唯一の分け身のような魂を今このとき永遠に失った悲しみに、まるで目の前で家財を破壊されながら天災が過ぎ去るのをただ眺めるしかない被災者のような無力感に打ちのめされながら、それでもただ痛烈にその現実を噛み締める以外になかったのである。
霊柩車は甲高いクラクションを鳴らして葬儀場を出発した。喪服姿の縁石たちは、皆無言でバスに乗りそれを追いかける。霊柩車は火葬場へ向かいながら、喜子と所縁のある場所を一か所一か所巡ってゆく。
喜子の産まれた産婦人科病院、喜子の通った幼稚園、喜子の通った小学校、喜子の通っていた中学校、それからつい数日前まで暮らしていた自宅……思いのほかそれらは、息が詰まるほど少なすぎた。
高校に入学してから一度も実家に帰省していなかった私は、まさかこのような形でこの街に帰ってくるなどとは考えようもしなかった。この街の変わらぬ光景は、私にとって、そして喜子にとって、いくらなんでも新しすぎたのである。