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じきにぽつぽつとほかの生徒が入室してくる。ただしその誰もが、岩のようにひっそりと動じない私には全く無関心である。人数が増えてゆくにつれ室内は騒がしくなるが、私の存在はこの時虚無そのものに擬態している。
だがもしもこれが真逆の立場だったらと考えると、私は間違いなく激しい拒絶を覚えるだろう。他の生徒たちの集まる中へと立ち入るとき、朝方の朗らかな喧騒すら恐ろしいと感じる病的な異常者が本当に恐れるのは、そのとき自分自身が他者から一切認識されないということなどではなく、望みもしないのに他者から認識対象として自然に認識されることなのである。
「せんせー、廊下は走っちゃダメですよー!」
「ハハハ、おっそー。運動不足じゃないですかー?」
廊下際の座席で友人同士おしゃべりしていた女子生徒が突然、オープンカーから身を乗り出すように窓外を見て、口に手を添えて大声でおかしなことを言う。それを皮切りに他の生徒たちもなんだなんだと廊下に顔を出して、同じように教師を皮肉っている。
廊下の外から響いてくる騒々しくたどたどしい足音は、次第に大きくなり、そして私たちの教室に到着するのと同時に沈黙する。