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私たちは暫く互いから目を離せず、まるで脅迫でもされているかのように動揺して、その場に固まった。
「……ご、ごめん。わ、私、何してるんだろ」
都琉が先に硬直から抜け出した。私はまだ、己の固形状態を融解させることすらままならない。
「ごめん。善生くん、私、今日はもう帰る……ごめん。その……びっくりさせて……じゃあ……」
一連の主犯の都琉は、その場から逃げるように、足早に駆けだした。この事件現場の目撃者は私たち以外に一人もいなかったのに、それでも都琉はその愚行を誰かに、ほかならぬ私か彼女自身に問いただされるのが怖かったに違いない。
都琉が逃避行に走ったとき、漸く私は硬直から解かれて、それを引き留めようと決死の思いで右腕を伸ばしたが、もはや到底間に合う距離にはいない都琉の小さな怯える肩に触れようとした掌は、数歩だけ歩いてそれを諦めてしまった両脚と共に、雨に打たれながら、虚ろな空を眺めるだけだった。