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「どうかした?」と私が聞こうとするや否や、それを掻き消すようにカフェの扉が開き、静々と降りしきる雨音に追いかけられながら一人客がやってきて、玄関マットの上で雨粒の付着したこうもり傘をめんどくさそうにたたむ。私が一瞬その物音に気を取られたとき、都琉が何か思い立ったように席を立つ。
「善生くん、雨降ってるけど、そろそろ出ようか」
別にこれから急ぎの用事があるわけでもないのに、都琉は客が入ってきたのを何かの口実にでもするように、私に身振り手振りを加えて退店を促した。私たちのことをよく知っているカフェのマスターも、特に邪険な顔をしているわけでもなく、普段通り置物のような佇まいである。
都琉にいったい何があったのか? もしかして私の感想が癪にでも触ったのだろうか? 何にせよ私にはよく分からない。
私は不思議に思いながら、二人分の代金を払いにカウンターの隅のアンティークレジに向かった。都琉は「先に出てるね」と言って、小雨とはいえ、厚手のダッフルコートの上からでも肌寒いくらいの夕暮れの店外へ出てゆく。