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母は一言でいえば、病人のような女である。私が幼いころから、母は体力不足で仕事が長続きせず、何度も退職と復職を繰り返していた。事実その身体の線は、奇怪な宿痾で根腐りした稲のように心もとないほど細く、顔面は頬骨が張るほど痩せこけて、不治の病の末期患者のようである。
面長で薄い顔立ちで、いつも心ここにあらずな、ぼっとした、虚ろな目をしている。母はかつて、悲観的な作文と作詩にかけては優れた資質を持つ、地元では有名な文学少女だったという多感で繊細な面と、自分の欲さない些細な環境変化、例えば50段階のうち常に6に設定されているリビングのテレビの音量が一段階でも大きくなれば、それを直ちに聞き分けて甲高い金切り声で文句をつけるような過敏で神経質な面を持ちあわせた。
こんないかにも不幸の花嫁衣裳を着たような母は、家族と共に温かい食卓を囲む時でさえ、やはり幸福というものが心底苦手なのか、ものを食べるときは必ず茶椀や皿の底を覗き込むくらい深く俯いて、中々行方の定まらない箸先を震わせながら、辛気臭く啜り泣くように一々小刻みに洟を啜りながら口にするのである。