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さてあの夏祭りの日から今日にかけて、それ以上に私と都琉の間に大きな関係の進展が無かったことは、私にとっては幸福なことだったかもしれない。当然私の方から何らかのアプローチなどするはずもなかったが、しかし私が危惧していたような都琉からの明瞭なアプローチといったものも、同じように無かったのである。
しかるにこの嵐の前の静けさのような平穏は、経験の浅い若い男女の間に特有な、ゴールを目前にした足踏みのようなものと考えるのが極めて妥当であるならば、しかしこの互いの腹の裡の読み合いに少なくとも私は全くと言っていいほど加担していないという意味で、やはり私は精神的に非常に安定していた。
私には都琉の若さこそが味方をしていた。それを見ていれば最早私ですらあからさまに分かる都琉の決意を、すんでのところで邪魔しているのは、奇しくも彼女自身の若さなのだ。
「善生くんはさ、私の脚本、本音で言うと何次まで通過すると思う?」
都琉が手相占い師のような上目遣いで私に聞く。
「えー、聞きたい?」
「聞かせてよ。一意見としてしっかり受け止めないといけないもん」
「そう? ならね……」