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「脚本、一次選考通過したんだって? 凄いね」
「ありがとう。だけど一次選考はすっごく基本的な部分が出来てれば通るから、例えば校正とかそういうのね、だからここからが大事な選考だと思うし、選考自体四次選考まであるから、こういうのも変な話だけど、賞が貰えるかどうかなんて気が気じゃないよ」
「本当? 本当は受賞する自信に満ち溢れてるんじゃない? そう思うくらい読んでて楽しい脚本だったよ」
「もう、あんまり褒めすぎると良くないよ。落ちたときすっごく落ち込んじゃいそうで。実際本気で書いてるけど、その気持ちがちゃんと、読んだ人、それに演じる人に伝わるくらいの出来だといいなってくらいに思ってるのが、一番気が楽というか……。いざって時自分に変な責任感じなくて済むんだ」
都琉は鼻先を真赤にしながら角砂糖入りのホットコーヒーを含む。
別に室内暖房の効きが悪いわけでもなく、風邪をひいているわけでもなく、ただ恥ずかしいという感情が、彼女の敏感な、天文台の設置された孤高の山頂のように冴え立つ鼻先に最も目立ちやすいことに気付いたのは、実にこの冷え込んできた数週間のうちのことである。