表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
禁域  作者: 禅海
第三章
173/204

173

 この場にいる誰一人として、このような殺人行為を続ける私を止めようとする者はいなかった。一体誰が私の本性に気付けるだろう。私が生粋の異常者であり、その猟奇的な計画が今着々と進行しているなどと!

 そこでは人間の他者に対する印象操作的な善悪判断機構が、誤って機能していたのである。まさか今私が人の命を救おうとしているのではなく、人を殺そうとしているなどと、この状況で考えられるはずもない。人間とは悲しいほどに、事実の現場を前にしたときほど盲目である。

 ああそれにしても、私はきっと悪魔に違いない。今私は私の慾望を満たすためだけに、そう、自分が幸せになるためだけに、この死にかけの女を生贄にしようと必死なのだから!

 私が女の死を強く願うほど、私の圧迫力は強くなるように思われた。死を願う圧の合力はその内圧と外圧とが表層と表層の接点に均等に配分されて、同時にこの圧力こそ私の雄々しい一部位に触れ難いほど熱い血潮を漲らせてくる! ああ、幸せだ。私は今計り知れないほど幸せだ!


 止めとばかりに女の胸を潰しかねないほどこれ以上ない強さで圧迫しかけた、そのときである。


「善生くん、善生くん! 息が……息が戻った。戻ったよ! ……」


 気の毒な金魚のビニール袋をアスファルトにぶちまけた都琉のひっきりなしの報告が、私の努力を一瞬で水の泡にした。

「そう……か」と私は心なし顔に血の気が戻ったように見える女の胸部から手を離し、人が変わったように、いかにも一仕事終えた外科医のように安心し深呼吸をする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ