17/204
17
父は黒髪に多少白髪の雑じった、小肥りで、背の低い工場勤務の男である。丸顔で、分厚い垂れ目を筆頭に顔のパーツはどれも丸みがあって、そのせいかなんとなく心身に締まりがなく、嘘に引っかかり易い・人の好さそうな顔をしている。けれど実際本当に人が好いのかといえば、寧ろ正反対のように私には思える。父の行動には必ず芝居がかった躓きを伴い、それは緩慢でぎこちなく、わざとらしく見えるためである。
例えばその特徴的な、白黒映画の脇役の芋侍のような、大袈裟な抑揚をつけた口ぶり、棒読みのような高笑いは不快極まりなく、それらはおそらく、彼の子どものころから変わらない何事にも臆病で柔弱な気質が、子どものまま大人になったあかつきに、いよいよ妻を迎え子どもを授かって、家長としての威厳を示さねばならないという一種の強迫観念と結合した結果であるとも言えるかもしれない。