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あやふやながら私は、丁度夏季休業前に高校で実習した救命方法を実践した。気道確保は都琉に任せて、自分は胸骨圧迫を担う。
何故私が、何の躊躇いもなく、このような人命救助を買って出たのかは、私自身にすら分からない。とにかくそれが起きたときはこうするように、人間が生きるために本能的に呼吸をするように、身体が勝手に動いたに過ぎなかった。
しかし浴衣の上から胸骨圧迫を続けながらも、女性の呼吸と意識は中々戻りそうもない。都琉は必死に人工呼吸をする。私も圧迫を続ける。しかし状況は変わらないまま無言の時間だけが刻々と経過する。
……もしかしたらこのまま助からないかもしれない。そう私は直観する。私は必死になった。死の足音が聞こえる。彼女を連れて行こうとする足音が。
だがそのとき、一つの疑惑、私には自分自身に対する揺るぎない疑惑が生じた。何故私はこんなに必死なのだろうかという疑惑。何故全てを顧みない奉仕をあの一瞬で決断したのかという疑惑……するとまさに、そのような疑惑を待っていた何者かが、私の裡で邪悪に囁く。