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白い手首の次に、私の直前に蒼白な女の顔が現れた。突然の苦しみに歪んだ表情、そして転倒した際に作ったらしいこめかみの裂傷から流れ出る少量の血。
「どうしたの善生くん。大丈夫なの?」
私を追いかけてきた都琉が、目の前に倒れている見知らぬ女を見て驚いて動揺する。年齢は二十から三十くらい、細身で力の入らなそうな手足……などという外見的特徴を悠長に観察することもなく、私は車輪の壊れた荷車から地べたに崩れ落ちた積荷に駆け寄るように、女の胸元に膝をついて、すぐに救命活動を開始した。
「もしもし、大丈夫ですか。話せますか」こちらの問いかけに応えない。どうやらとうに意識はない。
私は都琉に女の頭近くにしゃがむように指示して、「都琉さん、呼吸してる?」「ううん。してない」「じゃあゆっくり頭を、顎と鼻を上に向けて」と気道確保に努めさせる。
それから携帯で救急車を呼ぶどてら姿の男に、「救急車が入れるように経路確保をお願いします。すぐ誰かに本部まで状況を伝えさせてください。それから商店街のどこかから、スーパーでもコンビニでもどこでもいいのでAEDを探してきてください」と指示した。