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祭りの会場はいつまでも冷めやらぬ気配に包まれている。空に描かれ続ける大輪、狂ったようにかき鳴らされる祭囃子、そのリズムに合わせて練り歩く民衆、それらは今確かに全体で見ると蠕動のような運動を続ける単体の生物かのようにも思われた。
目まぐるしい躍動に次ぐ凱歌、血が猛り身震いする凱歌に次ぐ夥しい蹂躙。ある意味革命か戦の前夜のような無類の活気が、この世界の一部をほしいままに支配している。
だがこのようなある種の騒乱の気配は、次第に秘密裏に、重大な事態を引き起こしかねないのもまた事実である。この激しい蠕動の中に、あるとき、ほんの一瞬、不和を招く静止が認められた。そしてその静止の現場から、また一瞬にして、激しい地響きのような慟哭が蠕動しながら轟いた。
「おい! 大変だ!」
私と都琉は他の民衆と同じようにその怒鳴り声のようなものの方へ意識を奪われた。声のしたところを中心に、雑沓が円状に集まっている。絶句する親の袖を引っ張りながら、無邪気にそこを指さす子どもたちとは対照的に、驚いて口を手で塞ぐ者、驚悸して少しずつ後ずさりする者、何事か分からずただただ呆然とする者……。
「救急車! 救急車呼んで!」
派手などてらを来た男が一様に叫び続けているその足元に、だらんと転がった白い手首が見えたとき、私は無意識に咄嗟にその場を飛び出していた。祭りの和やかな雰囲気が、私に走り過ぎられるそばから凍り付いてゆく。