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「あ、花火」
都琉が小さな手提げ袋と金魚の袋を手首にぶら下げたまま、いつの間にかすっかり日の落ちかけた紫色の空を指さした。殆ど欠けた白月の浮かぶ夜空に大輪の花が咲く。一つ、二つ、それから三つと、次々に激しい爆煙と爆発を響かせながら、この世界を崩壊させるような比類なき衝撃を伴いながら。
絡み合った十本の指と指が充血する。指紋という指紋、手相という手相が、一対の全く異なる生物的模様とも思われぬほどによく馴染んで、貝殻の両側がその内側に一粒の真珠の意味を隠しつつ、遥か彼方の漣を感じるように、その目前の希望に満ちた七色の大海から、果てのない永遠の幻想曲が、膨らんで萎んでを繰り返しながら、ゆっくりと近寄って来るようにも思われた。
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